2007年12月26日

Manson氏のアジャスター


駒の高さを変える事ができるアジャスターは、ソロとオーケストラ、体調や気候に合わせて弦高を変えられるので、非常に便利である。取り付けにあたっては、作業のクオリティも問われるが、アジャスター自体の出来(機能や見た目)も重要なことだ。

以前に紹介した黒檀のアジャスターもクオリティが高く、選択肢の上位と考えているが、軸部分が太くなるため、脚の細い駒には取付ができない。そこで、取り寄せて実物をチェックした結果、今回は、Manson氏のアジャスターを使う事にした。

ご覧の通り、Mansonアジャスターは、軸部と円盤部分が別体で、軸部と円盤部分の間が可動部分となる。円盤部分が一体のタイプでは、駒の木部が可動するメネジとなる弱点があったが、このタイプでは、可動するのは金属同士のネジ部分なので、テンションをかけた状態でも調整が可能である。参考までに、別体タイプはLemurContrabass Shoppe にもある。

Mansonアジャスターの特徴はまず材質にあって、軸部がステンレス、円盤部がアノダイズされたアルミなので、先の黒檀製のものよりは重いが、真鍮製のものに比べれば半分近くの重さしかない。また、ネジ部分はM6で、脚の細い駒にも付けられる。このアジャスターのネジは通常のネジに比べ精度の高いネジ切りがされていて、ガタが少なく、動きもも滑らかである。さらに、円盤部分の上下には段欠きが施されていて、駒とのフリクションを減らしている。

取り付けた結果は上々で、テンションをかけた状態でのアジャスターの操作も問題無かった。但し、高さを上げる場合には、チューニングがかなり上がるので、一時的ではあっても、弦が張り過ぎにならないよう注意した方が良いと思う。見た目に関しても、円盤部分の真鍮色は落ちついた良い色で、今回取り付けたVienneseのオールドに良く合った。アジャスターの取り付けは、DIYはお勧めできないが、筆者に連絡を頂ければ手配は可能である。

Manson Superspikes
http://www.superspikes.co.uk/

2007年12月21日

テスト用のハイサドル


ハイサドルは、駒から表板にかかるダウンスラスト(テンション)を減らすために用いる。

ハイサドルを導入すべきかどうかは、各弦の音量のバランスや弾いた時の感覚によって判断している。しかし、気軽にテストできれば、それに越した事はないと思う。

以前、ハイサドルの簡易な代替手段として、レイズド・テールピースをテストしたが、ダウンスラストを減らす効果は無かった。ただ、レイズド・テールピースには、テールピースの振動をより自由にする効果があり、テールピースの共振ピッチを下げる。これは、テールガットの長さを長くすることとほぼ同じ効果なのではないかと思う。モード・チューニングでテールピースの共振ピッチをコントロールする手段として有効なのではなかろうか。テールガットの長さには制約があるからだ。

話しが逸れたが、今回の写真は、テールガットの下に挟んで、既存のサドルの上に載せ、サドル高を上げるための、一時的なハイサドルである。単に挟むだけで、サドル以外の部分には当らないようにしてある。テールガットさえ長いものと交換すれば、他には変更を加える事無く、ハイサドルの効果をテストできると言う訳である。先のレイズドテールピースと同じか、それ以上に簡単である。

このサドルが一時的な理由は、テールガットを介して、エンドピンのシャンク(ソケット?)を引きぬこうとする力が働くことにある。エンドピンのシャンクがしかるべくフィットされていれば、一時的な使用には問題が無いが、時間が経つと抜けてくる可能性が大きい。

2007年12月19日

サドルクラック


写真は、英語ではサドルクラックと呼ばれる、サドルの角から伸びる割れだ。

表板は、湿度に応じて巾方向に伸び縮みするが、サドルの繊維方向は表板と直交していて、伸び縮みが殆ど無い。表板の巾が広がろうとする場合は問題無いが、乾燥して縮もうとするとサドルが突っ張る事になって、表板に割れが入る。

この割れを防ぐには、サドルの両端に隙間を設けておく事が必要だ。隙間が大きすぎてもみっともないが、ピッタリに入れてあるサドルも良さそうで良くないのである。もちろん、隙間をあけるのはサドルの両端のみで、表板の木口と接する面は密着していなくてはならない。この部分は弦からのテンションを表板に伝える重要な部分だからである。

この楽器の場合も、サドルの両脇にクリアランスが無かったか、少なかったかのいずれかが原因ではないかと思われる。サドルはオリジナルではなく、後の仕事かもしれない。本当は、サドルを一旦外してクリアランスを取る必要があるが、周辺の表板の状態も考えて、今回は外さずに割れの補修をして様子を見ることにした。

サドルの話とは関係無いが、サドルの上方に2箇所のダボ跡が見える。このようなダボは、表板を開けて修理を行う時に、位置決めのために使う。この楽器は、過去に少なくとも2回は開けて修理をされたということかも知れない。

2007年12月14日

エッジ補修5


色が合ったところで、今回は周囲の状態に合わせてエイジングを行った。

贋物作りみたいでちょっと気が引けるが、ここだけ新品の様でもおかしいのでやることにした。年月が経ったときにもあまり違和感なくフィットしてくれていればと願うのみである。

この位の面積ならそれ程目立たないけれども、当てる光によって違う色に見えたりするから油断は禁物だ。白日のもとにさらすとは良く言ったもので、室内の光線では仕上がっているように見えても、外光では、全く違ったりする。木材の塗装では、塗膜だけでなく材料自体の反射があるので、素地調整の段階から仕上がりに影響がある。しかし、だからこそ反射に深みがあり奥行きができるわけで、木という素材の前には自分の力足らずを知らずにはおれない。

2007年12月6日

エッジ補修4


形が整ったら、ニスでタッチアップしていく。ニスの配合は人それぞれだと思うので、特にこだわりがある訳ではないが、楽器用にはshellac, mastic, sandrac, benzoin等の樹脂を適宜配合して使う。

筆者の所は、埃のコントロールが難しいので、アルコール系のニスである。写真は、何度か塗り重ねて、色が合ってきたところである。エッジ部分は、特にこの位の面積なら音には殆ど影響が無いと思うので、少し固めのニスにした。多少は磨耗に耐性があるかもしれない。

2007年12月4日

エッジ補修3

写真は、Scarf jointの部分にも材料を継ぎ足して、あらかた成形したところである。この部分は後の修理で外す必要性が薄いと思うので、接着は強めにして、但し、横板との接着面に影響を与えないように行う。強めの接着とは言え、膠だから、後の修理者が気に入らなければ外す事は可能である。

接着が上手く行ったら、成形は比較的楽しい作業だ。この楽器の場合は、表板の他のコーナーが全て補修されていて、夫々の形になっているので、オリジナルの形が判然としない。裏板も見ながら他とバランスを取って形を作らざるを得ない。オリジナルは、もっとクリスピーなラインだったのでは無いかと思うが、長年使って磨り減った感じが出ていると言えば言えるかもしれない。

2007年11月28日

エッジ補修2


表板の繊維が繋がっている部分を極力残して接着面を成形し、それに合わせて、継ぎ足す材料を作る。木目の間隔が合う材料を選び、木裏木表を確認して製作すればよりフィットするのではないだろうか。

接着面の一部に木口が残ってしまうので、写真手前側のもともとあった割れを利用して、後ほど補強する事にした。


補修部材を接着後大まかに成形してから、補強部剤を兼ねた外側の部材のための接着面を成形する。この接着面は、以前からあった割れの補修跡と象眼の境を利用して、scarf jointするためのものだ。先に接着した部材を外から支えて、小口接着部分の強度を補う意図がある。

2007年11月26日

エッジ補修1

コントラバスは、床に置いたり、椅子に立てかけられる事が多いから、楽器のエッジが痛みやすい。

ガンバタイプの楽器では、ヴァイオリンの様に目切れしていないが、それでも角の部分は痛みやすく、この部分が補修されている楽器を見かける事も多い。良く見ると新たな材料を継ぎ足してあったりする。この楽器の場合も、残る3箇所も補修がされていた。弓先がヒットすることもあるし、表板は裏板より柔らかいから、表板の方が痛みやすいのではなかろうか。

写真の楽器のエッジは、単に割れたわけではないので、割れたかけらを接着して終わりと言うわけにはいかない。オリジナルの木部をなるべく残すようにして削り、接着面を作らなくてはならないが、木口面は接着の強度が低いので少し工夫する必要があるように思われた。幸いな事に、側板までは損傷していなかった。

2007年11月17日

指板を修正する

楽器を弾いていれば、指板も減ってくる。ハーフポジション近辺は、使用頻度も高いので、弦の当る部分が減って溝を作ってしまうことがある。

こうなると、減った分だけ弦高が高くなり、押さえるのに余分な力が必要になる。溝の深さが0.2mmもあれば、相当に負担は増えるはずである。指板の厚みに余裕があれば、指板を削りなおして修正が可能である。

このとき掘れてしまった溝の近辺だけでなく、全体に渡って均一にキャンバー(反り)が施されるように削りなおす必要がある。掘れた近辺だけを削ると、見た目は綺麗になるが、先のハーフポジション付近の弦高は高いままなので、演奏にとってよいことは一つも無い。確かに、一部だけを削る方が圧倒的に楽なので、良くない誘惑があることは確かだ。さらに全体に渡って削る場合、当然上ナットや駒の調整が必要になることもある。掘れた部分を削るだけなら上ナットの近くだけを残せば、ナットは正しく調整されているように見えるわけである。

要は、指板全体を均一なRに仕上げる為には、技量も要るが手間がかかるということだ。場合によっては、G線側のキャンバーを浅めに、E線側を深めにというような配慮が必要な場合もあるし、黒檀は必ずしも削りやすい素材ではないのである。安く直してもらうに越した事はないが、仕事のクオリティを正当に評価する姿勢が無ければ、演奏しにくくなるだけの補修が蔓延してしまうのではないだろうか。

2007年11月9日

ウルフキラーとミュート

以前、Torteタイプのミュートは、ウルフキラーと干渉すると書いた。

しばらく悩んでほったらかしにしておいたが、ミュートをG線とD線に付ける方法に気づいた。こういうのは、悩んだ瞬間に思いつかなくてはならない類のものである。つくづく情けないのである。

2007年11月5日

半音の巾

Cエクステンション(Cマシン)を作るときには、半音の巾を知る必要がある。

コントラバスの場合は弦長が様々なので、キット化されて販売されているエクステンションでは、カポの位置を調整できる様になっていると思う。逆に調整できなければ、特定の弦長のコントラバスにしか取り付けられないということになって、おかしい訳である。筆者の場合は、取り付ける楽器に合わせて、カポの位置を固定してしまうので、弦長からカポ位置を計算する。

半音の巾は、2の12乗根を用いて計算することが出来る(平均律の場合)。オクターブで振動数が2倍になるから、12回掛けると2倍になる様に半音の巾を決めるということだと思う。計算すると、弦長が106cmの時には、開放弦から半音上がった位置までは、5.95cmということになって、結構な巾である。次の半音までは5.62cmなので、先の半音と足した11.57cmが、ハーフポジションでの1指から4指までの距離だ。エクステンション上では、半音の巾はもっと広くなって、C-Cis間は7.5cmにもなる。

これらの値は、理想的な弦について計算したものだから、エクステンション上で、コントラバスのような太い弦を使った場合に、計算どおりいくのか疑問に思っていた。エクステンションのモックアップなどを制作する段階で、チューナーを使って確認したところ、思いのほか計算どおりの位置で正確な音程になった。もちろん、もとの指板の反りが適正で、それに沿ってエクステンションを付けるという条件のもとである。エクステンションが指板に沿っていないと、不必要に弦高が高くなって、半音の位置も計算した値から離れて行くのではなかろうか。

2007年10月25日

レイズド・テールピース(続きの続き)

果たして、テールピースにスペーサ―を入れることによって、本当にダウンスラストは減らせるのだろうか。

ハイ・サドルで、ダウンスラストが減るのは間違いない。テールガットが固定される一方の端(サドル)の高さを高くしているからである。しかし、テールピース+スペーサでは、そうは言えないのではないか。先に実験したところでは、確かに楽器の調子は良いし、音の変化はハイ・サドルによってもたらされる変化と同じ傾向の様に思えた。そこで、その時には、ダウンスラストが減ったものと考えていた。しかし、本当にダウンスラストは減ったのだろうか。

スペーサでダウンスラストが減るかどうかという問いは、図のaとbで、弦と駒のなす角が変わるのかどうかという事のように思う。こうしてみると、どんな高さのスペーサを入れてもテールピースのサドル側が飛び出てくるだけで、弦と駒のなす角は変わらないように思える。Bollbach氏の考案に関して筆者の理解が浅いのかもしれないし、何かやり方が違うのかもしれない。

他の作業や楽器を使う都合もあり、直ぐにはもとに戻して確認できないが、音に対する影響はともかく、スペーサのダウンスラストへの寄与については疑問がある。

2007年10月23日

コントラバスを送る

筆者は九州在住なので、コントラバスを送るにしても送って頂くにしても、一筋縄ではいかない。同様の悩みをお持ちの方も多いと思う。これは、筆者が楽器のセットアップ等を手がけるようになった一因でもある。

「楽器運送」を謳っているところでも、そうでないところでも、ハードケース無しではまず引き受けてくれない。たとえ「コントラバス」が何かを説明するのに成功し、幸運にもハードケースが借りられたとしても、一律に決められている宅配便の料金とは異なり、コントラバスのような特殊な荷物の輸送費は、どうもすっきりしないのである。ハードケースに入れた状態を前提に関東圏までの見積もりを聞いてみたら、Y社の楽器輸送は発地によって違うと念を押され7万以上(復路は別な見積もりが必要)、S社は営業が来てくれたものの、楽器を見て長々としゃべった挙句、見積もりをすると言ったきり二度と現れなかった。数年前に利用したN社は、3万強だったと記憶する。当時の復路はS社で1万程度だったので期待していたが、約束を守れないような会社では頼む気になれない。どなたか、良い方法をご存知の方がおられたら、そっと教えて頂けないだろうか。

航空会社は、コントラバス用のハードケースを持っていると言う事は知られているが、筆者もちょっと調べてみた。ちょっと前の情報なので、現在の正確な状況は会社にお問い合わせ頂きたい。専用のハードケースを予約しておいて、ソフトケースごと入れて預ける方法である。残念ながらこの方法では、楽器だけを送ると言うわけにはいかない。しかし、ハードケースを自前で用意する必要も無いし、これほどコントラバスに理解のある業界は他にはなかなか無いのではないだろうか。「コントラバス」が通じるのである。予約もフリーダイヤルで電話代すらかからない。筆者の最寄空港―羽田間の割引航空券は、1.5万円位からある。ちなみに以下は国内線利用の場合である。

JAL 15kgまで無料(ソフトケース込み持込状態の重量) 
2日以上前要予約
貸与されるハードケースを除いて重量計算してくれるので、
大抵の場合追加料金は不要
オーバーした分は、500円/kg

ANA 貸与されるハードケースを含む重量で計算
(概算で+15000円追加料金が必要)要予約
一人15kgの無料枠を超える分に料金が必要のため
3人以上で乗れば(15x3=45kg)おそらく無料

各航空会社のグループには、荷物の輸送を専門とするロジスティック部門があり、いずれにしてもそこが実際には荷物輸送を行うのであろうから、試しにそこに持ちこんで空港止めで運んでもらえないか調べてみたが、上記の航空券を買って運ぶ場合より費用がかかってしまうということであった。

(注)現在では、運送業者との契約により、この投稿時点より安価に楽器をお送りいただく事が可能となっています。詳しくはお尋ねください。(2009年12月10日追記)

2007年10月18日

レイズド・テールピース?(続き)


テールピース下のスペーサは、その後問題無く快調である。正面からなら見えないし、自分の楽器なのでこのままでも良いかと思いはじめている。こんな小さなスペーサで、かなりの変化がある。ダウンスラストのコントロールの重要性を認識した。

弦の張力に耐えるスペーサの形状や素材を考慮しなくてはならないが、この方法は、ハイ・サドルに比べれば圧倒的に簡易であるし、元に戻すのも簡単である。もちろん、取付時に全てのテンションを解除してしまうので、魂柱や駒のセットアップは必要である。

未知の問題点としては、モード・チューニングにも関わることで、レイズド・テールピースの振動の仕方が、ノーマルの場合と少し違う様に思われることである。これが、問題なのかどうかは今は分からない。

喜んでいたら妻がやってきて、「パチ・サイ・ハドルだ」と言った。これはサドルではないから、パチもの扱いは不当だし、少なくとも、サイ・ハドルでなく、ハイ・サドルである。

2007年10月17日

弦高と移弦のマージン

弦高は、通常、指板の駒側の端で、指板からの距離で表される。
弦高の値は、人によってさまざまだ。筆者の場合、特に高くしたいという希望が無ければ、G線から6,7,8,9(又は8)mmとして、そこから好みや指板のキャンバーを考慮して調整している。ハイポジションを多用する場合には、G線が6mmでは少し高い感じなので、4mm位にする場合もある、といった具合だ。

しかし、実際には、指板からの距離だけでなく、弦どうしの位置関係も重要なのである。指板のRは楽器によって様々だから、弦高の値だけを信じて調整すると、弾きにくくなる場合がある。例えば、平らな指板の場合には、D,A線を高めにしないと、隣の弦も一緒に弾いてしまいがちなセットアップになってしまう。逆に、極端に丸い指板だったとしたら、移弦が遠くなってしまい、楽器本体のCバウツと弓が干渉しやくなる。

奏者によっても、このマージンが少ない方を好む人もいれば、逆の人もいる。
測り方は色々あるだろうが、この相対的な位置関係を数値にしておくと、奏者の好みも分かるし、セットアップの参考になる。筆者の値は(勝手に)移弦マージンと呼んでいる。場合によっては、先の”標準的”な弦高より、こちらのマージンの方を優先した方が良い場合もあるようだ。

2007年10月13日

レイズド・テールピース?

ハイ・サドルは駒が表板を押さえるダウンスラストを減らす方法の一つである。もちろんダウンスラストを減らした方が良いかどうかは、その楽器とプレーヤの好みによる。

Jeff Bollbach※のサイトで触れられている、ハイ・サドルによらずにダウンスラストを減らす方法について、ずっと気になっていた。ようやく時間が取れたので、自分の楽器で試してみた。未知の試みなので、ひとの楽器で試す訳には行かないからである。

今回の方法は、サドルはそのままにして、テールピース側にスペーサ―を入れる方法である。写真を見れば一目瞭然だ。形や、テールガットの取り回しには改良の必要があると思うが、機能としては充分であるように感じた。実際にやってみた結果、この方法でもダウンスラストは減らす事が出来ると言える。

機能的にはハイ・サドルと比べて遜色無い様に思える。問題は見た目である。現状は今一つ麗しくない。また、hillスタイルのテールピースには付かない。しかし、この方法は、テールガットを長いものと交換する以外は、楽器に一切手を加えないという利点がある。最終的にはハイ・サドルがベストの方法だったとしても、試しにダウンスラストを減らして、ハイ・サドルの導入が良いのか悪いのか、さらにはどのくらいの高さが良いのか、試してみるには格好の方法ではなかろうか。

筆者の楽器では、ダウンスラストを減らした方が良い様なので、このままで問題が生じないか、しばらく様子を見ることにする。

※Jeff Bollbach Luthier, Inc.: http://www.jeffbollbach.com/


2007年10月12日

ノイズ

剥がれかかったクロスバー、パッチ、表板や裏板の割れや剥がれ、あらゆるものがノイズの原因となりうる。

特定の音程にだけ反応するものも、そうでないものも楽器を弾いている本人にはとても気になるものだ。一見して場所を特定し、即座に対策をうつ・・・ことができれば良いのだが、意外にやっかいな代物である。気候によって、出たり出なかったりというのも難しいが、これは家電の故障でも良くある事だし、いずれにしても、出るまでは何もできないので、これはそれほど疲れない。

確かにノイズは出ているのに、半日かかっても場所が特定できないというようなケースは、本当に疲れる。探す場所は楽器の中だから、かかる時間も知れているようなものだが、筆者にはなかなか難しい場合がある。やっと見つけた割れを補修した後、何事も無かったかのようにノイズが出つづけたりすると泣けてくる。ミューミュー言うのである。

パッチが張られているような割れには、ついつい、疑いの目を向けてしまうが、一見しっかりついているようなクロスバーや、手で押したくらいでは動かないような割れが原因の事もある。先のケースでは、明らかに割れている大きな割れの横にあった、しっかりと補修されて密着しているように見える割れが原因であった。試しに、膠を流してみるまでは、肉眼では動いている事が分からなかったのである。

2007年10月5日

駒の高さを増やす

駒は調整して行くうちに、低くなって行く。
削って調整するのだから、低くなるしかないのである。新しい駒に交換する以外にも、駒が気に入っていれば、何らかの材料を足して使い続けるという選択肢もある。良質の材料を使った駒は高価だということもある。

以前紹介した、駒の足裏に材料を足す方法はその一例である。この場合は、表板へのフィットが必要になる。表板のフィットが悪く、削り代が足りない時は、この方法しかない。足の部分の厚みが少ないと強度が落ち、足裏の面積が減るのと同じ事が起きてしまう。

アジャスターのついていない駒の場合には、あらたにアジャスターを付けることで、駒の高さを稼ぐ事が出来る。これはアジャスターを延ばして高くすると言う事ではなく、アジャスターの厚み分駒の高さが増えるためである。

アジャスターのついた駒の場合には、アジャスター部分に材料を足す事ができるので、表板へのフィットにも影響がない。この場合には、アジャスターのネジ側を増やすか、反対側を増やすか2通りの選択肢がある。いずれにしても、アジャスターの軸の平行を保つための精度が求められる。

これらの方法を用いて駒の高さをあげる場合には、左右の脚の長さを変えられるという利点がある。しかるべき注意をはらって作業すれば、表板上の駒の位置を理想的な位置に保ちながら、指板に対する弦の位置を調整できる。

2007年9月28日

アジャスターの取り付け


アジャスターを取り付けのメソッドも色々あるようだ。色々あるのは、決定盤が無いということかもしれない。大切な駒である、例によって、取り付けは専門家に依頼することを推奨する。

他にもいろいろあるかもしれないが・・・

駒足の裏から貫通穴を開け、足側にタップを切る。

駒足を切り離してから、切断面から夫々に止め穴を開け、足側にタップを切る。

駒足の裏からタップ下穴を開け、さらに途中までネジ径にクリアランスをプラスした径に穴を広げ、奥の下穴にタップを切り、タップ穴と広げた穴の境界で駒足を切り離す。これは、ネジ部分が駒の足でなく、脚側に来るので、特定のアジャスターのためのメソッドと言えるかもしれない。

駒足の裏から貫通穴を開ける方法は、足側と脚側の穴の軸に加工精度によるずれが生じないが、駒足の裏に穴が開く。穴の影響が無視出来るならば、筆者の感覚では、これが一つの標準的なやりかたと言えそうな気がする。特別な工具無しで、穴の精度を比較的上げやすいからである。

駒足を切り離してから、夫々に穴を開ける方法では、穴がずれないようにするためには、加工精度を高くするしかない。加工精度が無ければ、左右のアジャスターの軸が平行にならず、音に影響するのみならず、アジャスターの動作も固くなり、アジャスターを導入した意味が半減してしまう。

2007年9月23日

テールガットの長さ


テールガットが短くなりすぎた場合はどうなるだろうか。

例えば、モード・チューニングを行い、テールピースのピッチをチューニングした結果、望むピッチを得るために、テールガットを極端に短くしたい事がある。

筆者の乏しい経験上でも、たとえモード・チューニングを行ったとしても、テールガットの長さがあまりにも短いと楽器の鳴りを抑制する場合があった。例によって「必ずこうなる」と断言は出来ないが、良くない場合があるということである。テールガットの長さが短すぎると、テールピースはより強固に保持される事になって、テールピースの自由な振動を妨げる。ワイヤー等の柔軟なテールガットを使っている意味が薄れてしまうのかもしれない。

一方で、テールピースと駒の間が近くなりすぎるのも問題なので、こう言う場合には、より小さいテールピースを使う方向で考えた方が良いのかもしれない。

テールピースと駒の間が十分とれる場合には、モード・チューニングのやり方を工夫し、テールガットの長さを含めバランスの良い場所を探さなくてはならないようだ。

2007年9月13日

アジャスターの影響

駒の高さを調整するアジャスターは、その時々の環境に合わせて調整できる反面、音への影響が気になる。
ホームページのリンクでも紹介しているように、アジャスターが音に与える影響を調べた例もある。

先日、アジャスターの取付の時に、弾き比べる機会があった。使用したアジャスターは黒檀製のもので、重量は片側12g程度、一般的なアルミ製のものと同じくらいである。取付の前後で可能な限り同一のセットアップにして弾き比べたところ、殆ど差を感じられなかった。あくまでの筆者の弾き比べによる主観なので、一般化するつもりは無いが、何らかの変化があるだろうとの予想に反して、今回の取付に関しては本当に分からなかった。

たまたま黒檀のアジャスターと今回の楽器の相性が良かったのか、他に理由があるのかは分からない。アルミのアジャスターでも音に影響は無いと言う人もいる。駒を切って間に異質の物を挟むわけだから、影響が全く無いという事はないだろう。今回使用した黒檀のアジャスターでは、筆者には差は無視できる程度に思えたが、演奏者によってその辺の判断は様々と思うので、あくまで、音と利便性のトレードオフということになるのではないか。

今まで黒檀製のアジャスターは、ネジの径が大きくなるため敬遠していたが、今回使用したものは、製作精度もあり、綺麗に仕上げられていて、音共に良い印象であった。

2007年9月9日

駒足を足す


駒足の表板へのフィットを改善しようとするとき、削り代が少なければ足す必要がある。

足した部分は薄くなってしまうので、殆ど意味が無いかもしれないが、今回は手持ちの材料から、木目等がフィットするものを選び、もちろん木の表裏にも留意した。一旦駒足の裏を平面にして、ブロック状の継ぎ足し部分を接着した。写真の様に、継ぎ足した部分は殆ど無くなってしまうが。

もう少し手軽には、材料を薄くして、駒足に沿って曲げながら張るというのが現実的な線だろう。どちらかと言えば、ここに手間をかけるよりは、表板へのフィットの方が重要度が高いかもしれない。

表板へのフィットは、時間をかけて作業する。というよりは筆者には、時間が必要な作業だ。表板の駒が当る部分は、意外に凹凸があったり、曲率の変化が滑らかでなかったりする。これを隙間無く密着させるには、筆者の腕では、どうしてもある程度の時間がかかる。写真は、フィットが概ね終了し、周囲の仕上げ前の様子である。

2007年9月4日

ハイ・サドル(続きの続きの続き)

ハイ・サドルを導入すると、必要なテールガットの長さが増えると共に、サドルと駒の間の距離が変わるため、テールガットの長さ調整が必要になる。

ハイ・サドルによって、サドルと駒の間の距離が短くなる場合、テールピースが駒に近づき過ぎないようにしなくてはならない。また、ハイ・サドルに限らず、サドルからテールピースの間の距離があまりにも近いと、テールピースの自由な振動を妨げ、柔軟なテールガットを使う意味が薄れてしまう。

モード・チューニングを行うのは良いが、テールピースのピッチを重視するあまり、これらの状態を極端な状態にしてしまうと、良くない結果につながる事もあるようだ。

2007年9月1日

ハイ・サドル(続きの続き)

ハイ・サドルを製作するにあたって試作を行ううち、楽器が弦のテンションに耐えるメカニズムについて改めて考えさせられた。

Jeff Bollbach氏のホームページ※で書かれていたXiao-Houng Luo氏のコンセプトが興味深い。楽器の構造の強さを、卵に例えている。卵の上下を指で挟んで押しつぶそうとしても、なかなか難しいのと類似があるのだそうだ。そういえば、卵をつぶさずに卵を踏みながら踊る卵踊りというのを聞いた事があるような・・・。

ともかく、楽器はその形をしているが故に、弦のテンションに耐えるということである。弦の張力はネックとサドルを介して表板を上下から押し縮める様に伝えられ、一部は表板のアーチによって駒を押し返す力となっているという。

サドルは、表板とエンドブロックの両方に接して、それぞれに弦から受ける力を伝えている。表板と接触している面積は一見小さくて、たいした役割など無い様に思えるが、実際の面積を測定し、木材の圧縮強度から計算してみると、確かに、弦のテンションに耐えるだけの面積がある。

つまり、ハイ・サドルを導入する時には、なるべくもとのサドルと同じ場所にテンションがかかるように考えなければ、強度に対する本来のコンセプトから外れてしまうと言う事だろう。筆者は、結局木ネジを併用する形で製作した。恐らく問題無いのではないかと思う一方、永くもつ事を祈るばかりである。

※Jeff Bollbach Luthier, Inc.: http://www.jeffbollbach.com/
(卵の話はバスバーに関連して記述されている。 )

2007年8月31日

ハイ・サドル(続き)

ハイ・サドルは、本来のサドルより高さが高いため、弦の張力に負けて駒の方に倒れてしまうことがある。この時ハイ・サドルの一部が表板に当っていると、その部分を押しこんで表板を傷つけてしまう。

ハイ・サドルが倒れるのを防止する方法としては、サドルをエンドピンに向けて延長し、サドルとエンドピンの間のテールガットの張力を利用する方法や、エンドピン方向に延長した部分をネジで固定する方法等があるようだ。

テールガットの張力を利用する場合、テールガットの張力はエンドピンに対してほぼ直角になってしまう。通常のサドルを使用している場合には、テールガットの張力は、エンドピンソケットをエンドブロックに引き込むような方向にもかかっている。しかし、ハイ・サドルでは、この引き込む力が無くなってしまう上、サドルが駒側に倒れると、テールガットを介してエンドピンソケットを引き抜く方向に力がかかることになる。ハイ・サドルの導入にとっても、エンドピンソケットの嵌め合いは重要なのである。

Jeff Bollbachは、自身のホームページで、ハイ・サドルによって傷つけられた楽器を多く見ていると書いている。そして、ハイ・サドルに代わって、ダウンスラストを減らす方法の提案もしている。

2007年8月27日

ハイ・サドル

依頼を頂いて、ハイ・サドルの製作と取付をさせて頂いた。

ハイ・サドルは、high saddleとかraised saddleと呼ばれていて、文字通り高さの高いサドルの事である。筆者は言いやすいので、ハイ・サドルと言っている。サドルを高くしても、調弦が一緒なら演奏する部分の弦のテンションは代わらないが、駒が表板を押さえ付ける力(ダウンスラスト)を減らす事ができる。この様なコンセプトのサドルが、他の弦楽器にあるのかどうかは知らないが、コントラバスでは良く見かける。

ハイ・サドルの導入は、E線側とG線側の音量バランスが悪く、他に手段がない場合に有効ということだが、それ以外にも楽器によっては、表板の変形を防ぐ効果がある。しかし、全ての楽器にハイ・サドルが有効な訳ではなく、ダウンスラストを減らす意味があるかどうかを判断した上で使うことが必要のようだ。

ハイ・サドルの高さには、特に決まりがあるわけではない。良い高さをを求めるには、色々やってみるしかなく、時間のかかる作業である。形や取り付け方法も様々で、表板を傷めるリスクもある。もちろん、ハイ・サドルの場合でも、両脇に表板とのクリアランスが必要だ。

2007年8月21日

チューニングと鉛筆

上ナットの溝の調整が不充分だと、チューニングの時に「カキ」という音と共に、音程が段階的に変化してしまう事が有る。チューニングが量子化されてしまうのである。

弦が古くなって表面の巻きが緩んでいる場合には、この巻きのエッジがナットに食い込んでいる事がある。

弦に問題がないのに、これが起きるのは、上ナットでの摩擦が大きく、ナットとペグの間にテンションが残ってしまうからである。これを解消するには、ナットの溝を適切に成形するのが最も重要だ。同じ弦の通る溝でも、駒の方は、量子化とは関係ない。しかし、駒の倒れを修正する場合には事情は同じで、溝の形状が適切でないと、弦を緩めない限りテコでも動かないのである。

ナットも駒も、鉛筆で溝を塗ると、滑りを良くするのに効果がある。黒鉛を潤滑材として使うわけである。筆者は特に問題を感じないが、鉛筆の使用は賛否があるかも知れない。塗りすぎると周りが汚れるし、はみ出すとみっともないので、そこは丁寧に作業する。

ちょっと気になったので調べてみたら、鉛筆の芯は、黒鉛と粘土と油(動物性)が原料で、いずれも天然素材のようだ。この油も滑りを良くするのに一役買うのだろう。鉛筆で書いた字の周りが油っぽくなるような事は無いから、ごく微量か常温では固体の油なのではないかと思う。

黒鉛と粘土の割合は、HBで7:3位だということで、最も黒鉛の比率が高いのは6B。筆者は6Bは他の用途で使うが、ナットや駒の潤滑には4Bを使うことが多い。6Bでは芯が太く柔らかすぎて作業性が良くない様に思えるためだ。妻は「・・・どう違うんだよ。」と冷たい。

2007年8月17日

アジャスターの材質

以前少し書いたように、アジャスターの材質としては、アルミ、真鍮、木材(黒檀、ツゲ(boxwood)等)が使われている。


最近では、木材と人工素材のコンポジットのものや、強度の有る合成樹脂素材も使われるようである。合成樹脂としては、Delrin(tm)というのがあるらしい。デルリンって何?である。ポリアミドか何かだと思うが・・・。


おおまかな傾向で言うと、アジャスターの材質に強度があるものは使用されるネジの径が細く、アルミや真鍮では1/4"-20やM6などである。これが黒檀やBoxwoodとなると、7/16"-14やM10と大きいのが普通である。木質材料では、リグナムバイタも使われるようだ。これらの木材は、比重が1より大きいので水に沈む。

駒の厚みからすると、M10は少し大きめである。実際に使われているから、しかるべき配慮が払われていれば、実用になるのだろう。Robertsonのものは、7/16"のようだから、M10よりさらに大きくなるわけである。木工の感覚としては、貫通穴の径が材の1/3を超えると強度上の注意が必要になるように思う。筆者の個人的な感覚では、M8ぐらいの穴が理想に近い様に思えるのだが、オネジ側が木質の場合には、オネジ側の強度の方が低くなりやすいので、可能な限り大きくしているのかも知れない。


実際、オネジ側の強度が問題にならないアルミ素材のアジャスターではM8のもの(どこの製品かわからなかったが)もある。金属素材のアジャスターならM8の方がメネジ側に安心材料となる。木質材料には、ピッチがある程度粗い方が良いような気がするからである。

何故か世の中の金属製アジャスターの多くは1/4"-20やM6が多い。アジャスターの重量の問題かもしれない。

2007年8月13日

アジャスターの取り付け方向

いまさらながら、ヴァイオリン等でアジャスターと言えば、テールピースにつけるチューニング用のハードウェアの事なので、検索などでコントラバスの駒のアジャスターと混同されることもある。いや、どちらかと言えばコントラバスの駒のアジャスターの方がマイノリティだろう。

コントラバスの場合は、最初からチューニングマシンがついているので、チューニングを微調整するアジャスターには直接縁が無い。アジャスターと言えば、駒の高さを変えるアジャスター以外には無いのである。英語でも、"adjuster"だったり、"bridge height adjuster"だったりする。もちろんここでは、アジャスターと言えば、"bridge height adjuster"である。

アジャスターのネジ部分が、足側にくるのと脚側にくるのとではどう違うだろうか。筆者の場合は、特に必要が無ければネジ部分を足側にしている。ネジ部分の方が回転に対する抵抗が少ないような気がするので、足側が回ってしまうのを防げるように思う。調べた事が無いので、これは「と思っている」だけだ。
アジャスターの円盤部分が駒に接する面積を減らした、フリクションの少ないタイプのアジャスターも市販されている。このようなタイプでは、脚側にネジ部分を持ってきても良いのかもしれない。

木材をネジの形に加工するのはあまり強度の有る話では無いが、駒の木繊維の方向はネジ加工に有利な方向を向いている。もちろん、アジャスターの為に考えられた木取ではないと思うけれども、これが90°違っていて、木口にネジ加工をしなければならないとしたら、木部を加工したメネジではもたなかったのではないだろうか。とはいえ、駒の高さを上げる場合には、木のメネジに負荷がかかるから、駒の木部を可動部にするのではなく、軸と円盤部分の間を可動部にするコンセプトのアジャスターも有るようだ。

図を入れたい思う事が有るけれども、どうも手軽にいかない。あまり時間をかけずに、手書き感覚で簡単に図が書けないだろうか。

2007年8月5日

アジャスターの調整2

アジャスターを調整する場合、両方のアジャスターを同量回すのが基本的な使い方だが、片方だけ回すとどうなるだろうか。もちろん、あまり沢山は回せないので、あくまで微調整という前提である。

例えば、E線側を固定しG線側だけを高くする場合、G線の指板に対する高さは増す様に思われる。本当にそうだろうか。

G線側のアジャスターだけを高く操作する場合、G線は高くなるように動くと言うよりは、動かさなかったE線側のアジャスターのネジ部を中心として回転する様に動くはずである。このため、G線は指板に対する高さが変わるだけでなく、E線側に移動する。この回転の半径と指板のRとの兼ね合いによって、弦高が高くなるかどうかが決まるように思われる。また、G線側のアジャスターだけを動かす場合でも、全ての弦が動くため、先の場合には、E線もE線側のアジャスターのネジ部を中心として回転し、結果的にE線の弦高も高くなるように思われる。
もちろんこれらは、定性的な話であって、それぞれの変化量は楽器による。駒の高さや指板のR等が様々だからである。

通常のタイプのアジャスターでは、左右の出を極端に変えると、駒のネジ部分、ひいては駒足を介して表板に無理がかかるので注意が必要だが、許容される範囲で、上記の特性を上手く利用すれば、指板と弦の関係を好みの状態に微調整できる可能性が有る。

ただし、単にG線の弦高を変えるだけならば、G線側だけを動かしても効率が悪く、結局E線の弦高も変化するのであるから、G線側のアジャスターだけを操作するのではなく、両方のアジャスター操作する方が確実性があるし、アジャスターを回す量も少なくて済むのではないだろうか。

2007年7月31日

アジャスターの調整1

駒の高さを変えるアジャスターは、コントラバス特有のものの一つで、簡単に弦高を好みの高さに調整できる。

アジャスターは、駒の足の長さを、それぞれ独立に変えられる。それぞれ独立に変えられるのであるが、本来の意図としては、左右同じ量だけ動かす事が想定されていると思う。アジャスター取付に際しては、左右のアジャスターの上面に接する面が左右で同一の平面上になるように留意するからである。ここが正確に作業されていないと、アジャスターを出した時と、引っ込めた時で駒足の間隔が変わるというおかしな事になってしまう。

アジャスターの軸は、この面に垂直になるように製作されている。左右のアジャスターの出が違うと、この軸が先の平面と直角で無くなろうとする力が働いて、無理がかかる。

ただし、アジャスターの足側(脚側でなく)のネジ部分には若干の余裕があるので、ある程度までは左右の違いを吸収する事ができる。この余裕の範囲を超えて、あまり極端に変えるとアジャスターのネジ部分の負荷が高まる。だから、本来は、左右同じ量だけ動かす事が推奨されるわけだけれども、少しは左右の出を変えても良いわけである。

この軸の傾斜を許容するようなアジャスターもある。筆者はまだ使った事が無いので、現時点では何も書く事が無いが、アジャスターの左右の出を変えた時の弦高の挙動については、次回(予告するほどたいした事ではないが)整理したい。

2007年7月28日

エンドゴム

以前、エンドゴムの替えについての疑問を書いたが、純正品かどうかは別にして、ちゃんとしたものが手に入るようで、例えば、東京の山本弦楽器や、高崎弦楽器などでも扱いがあるようだ。過去は遠くなりにけりである。

ネジ式のものもあって一安心だが、ネジ部分は使えるのだから、ゴム部分だけ欲しい気もしてくる。問い合わせれば、有るのかもしれない。

先日楽器を見せて頂いたプロの方は、「ずれるかもしれないという可能性がある事自体がイヤだから、可能な限り刺す」とおっしゃっていた。換言すれば、エンドピンが動かない事がそれほど重要なのだ。ましてや、刺せないタイプのエンドピンに、エンドゴムは重要保安部品である。それ無しでは運転できないのである。

それなのに、中学生や高校生の使っている楽器はどうだろう。勿論正しい知識を持った学生は大勢いる。しかし、現実は厳しい。グラハム・ベルはルピナスの種をポケットに入れ、行く先々で蒔いたというが、エンドゴムをポケットに入れ、行く先々で配る偉人の登場を待たねばならないのだろうか。

2007年7月25日

クオリティ

先日、Robertsonでセットアップされた楽器を拝見する機会に恵まれた。

ソロ用に使われている楽器だが、所有者の方の厚意で、自由に計測させて頂いた。この場を借りて感謝したい。「どうだった?」と聞かれて、思わず「何も特別な事はされていないようです」と答えてしまった。感じた事を上手く言えなかったのだが、何も特別でないけれども、それが特別なような気がした。

指板のキャンバー、駒の位置、魂柱の位置全てが標準的とも言える配置であったのに、全てが手際良く、有るべきところに納まっていると言えば良いだろうか。クオリティとはこう言う事なのであろう。

駒はRobertsonの焼印があり、オリジナルのようだった。面取り等は最小限に抑えられていたが、完璧にフィットされていて、足の形などは、実に美しかった。

2007年7月19日

カビ

梅雨時は湿度も高く、楽器には辛い季節である。
2週間も降り続き、湿度が80%の日が続くとカビのリスクが高まる。

それでも、毎日楽器を弾き、綺麗な布で拭いてからケースにしまえば、カビが問題となる事は少ない。だから、毎日楽器を弾くのが最も有効なカビ対策である。しかし、演奏を本業としていなければ、たまには3日くらい弾かない時だってある。

もしカビが生えてしまったら、とにかく早めに楽器店に持ち込むのが最も安全と思うが、そうも行かない場合には、自分で拭くしかない。しかし、楽器に塩素系のカビ取り剤の使用は危険である。漂白力が強いため、取り返しのつかないことになるかもしれない。

エタノールなどのアルコール類も、注意が必要だ。アルコールがニスに付くとニスを溶かす恐れがある。ただ溶けるだけでなく、湿度が高い状態では、再び固まる時に白化する危険性がある。また、アルコールが、ニカワで接着されている部分に染み込むと、ニカワを脆くし接着強度を失わせる可能性がある。

自分でカビを拭き取る場合には(くれぐれも慎重に行っていただきたいが)水にぬらして固く絞った布でそっと拭きとり、直ぐに乾いた布で乾拭きする位ではなかろうか。この時の固く絞った布の水分は、勿論、楽器表面を濡らすのが目的ではなく、カビを分散させないよう吸着するための最小限の水分である。塗り広げないよう、そっと拭き取ってほしい。

指板の表面など、ニスの無い部分であっても、アルコールを使う場合には注意する必要がある。誤ってアルコールを垂らしたりしないよう、布にアルコールを染み込ませる場合には、楽器の上以外の所で行い、アルコールを染み込ませたら、一旦別の布に押しつけて余分なアルコールを取り除いてから、指板を拭く方が安全である。もし、指板が黒檀製で無く塗り指板の場合には、アルコールは避けた方が無難だと思う。

幸いな事に、カビは楽器の木材ではなく、楽器表面についた手垢などの汚れに、最初に生えるので対処が早ければ、楽器本体を傷めずに済む。裏を返せば、綺麗に維持されている楽器には、カビは生えにくいということでもある。

2007年7月16日

またサドル


サドルの両脇には、クリアランスをとる事になっている。

木の繊維方向と繊維に直行する方向では、湿度の変化に対する伸縮率が違うからで、通常は繊維方向の伸縮は無視できるくらいだが、繊維に直行する方向は1%くらい伸縮がある。

写真のサドルは85mmあるので、表板はその1%の0.85mmは縮む可能性があると考えなくてはならない。サドルをピッタリに入れてしまうと、表板が縮もうとするのを妨げるので、表板が割れる危険性がある。

筆者はヴァイオリンを扱った事が無いので、ヴァイオリンくらい小さくてシーズニングを充分に行えば、ピッタリでも許容されるのかも知れないと勝手に想像していたが、ヴァイオリンでも事情は同じようである。

ちなみに、同じ繊維に直交する方向の伸縮率でも、柾目と板目では伸縮率に差がある。板目の方が伸縮率は大きい。木材は、湿度による伸び縮みを繰り返しながら、年月が経つにつれて動きが少なくなり、内部応力も少なくなって行く。小僧のカンナ台より親方の台の方が、安定しているのである。

2007年7月12日

サドル


サドルには、テールガットを通すための溝が掘ってあるものと、そうでないものがある。この溝の機能は何であろうか。

溝があるものでは、テールガットを納める時に位置が決まるため何となくすっきりする。ズレにくいのも確かだろう。しかし、溝の無いタイプで、テールガットの位置がずれたという話は聞いたことが無い。筆者が聞いたことがないだけかもしれない。ただ、やろうとした方ならご存知だと思うが、弦を張った状態でサドル上のテールガットの位置をずらすにはよっぽどの力を加えなければ出来る事ではない。位置決めの機能としての必要性は薄いように思う。

モード・チューニングの観点からは、溝が掘っていないものの方がやりやすい。サドル上のテールガットの間隔を変えると、テールピースの共振ピッチを変えられるからである。テールガットの長さ調整だけでは、望みのピッチが得られない場合、サドルの溝が無ければテールガットの間隔で調整できる場合があるからだ。もちろん溝があってもこの操作は可能だが、溝が無い方が自由度は高い。

2007年7月10日

指板の延長


4弦のコントラバスの音域を低い方に広げるのが、low-C extensionだ。先日、指板を駒側に延ばすと言う依頼を受けた。指板の延長は、音域の高い方へのextensionいうことになるかもしれない。

一般的に、木材を繊維方向に繋いで使う事は、できれば避けたい事の一つとされている(但、建築では普通に行われる)。木口同士の接合は強度が出にくいからだ。指板を延長する場合、何百キロの重さがかかるわけではないから、接着のみでまず問題無いとは思っても、作る方としては、何らかの手段で補強した方が安心である。スチールの棒を入れる場合もあるようだし、どのような構造かは分からないが、ボルトで補強する例もあるそうだ。とにかく、補強が入っていれば、少なくともいきなり取れて落下する事は避けられると思う。補強部分が粘るから、完全に取れる前に何らかの前触れがあるはずだからである。

筆者の場合は黒檀のダボを自作して補強材とした。「”ダボ接ぎ”って、やってはいけない例のような響きがする」としきりに妻は言っていたが、それは誤解だ。語感で判断しないでもらいたいものである。木質のダボの強度は、スチールやボルトほどは無いかもしれないが、必要な強度は備えており、サビの心配が無い上に、同質のものの接着はやりやすく、将来もし又短くしたくなった場合にはそのまま加工できるという利点が有る。
もちろん延長部分のキャンバー(指板の反り)はオリジナル部分に倣ってつけなくてはならない。もう一つ言えば、指板を伸ばすには、指板全体を長いものに取りかえる方法もある。

2007年7月5日

ニス


ニス、ワニス、ヴァーニシュ・・・どれも意味は同じのようだ。
varnish→ヴァーニシュ→ワニス→ニス
と変化したと言う説も聞いたが、真偽は分からない。

ヴァイオリン族の塗装には、家具等の塗装とは違った側面がある。塗装の耐久性を考えれば、固いニスの方が耐磨耗性で有利だ。しかし、固いニスを塗り重ねると音響に影響があるのだろう。楽器には少し柔らかめのものが用いられるようだ。

筆者は、シェラックをベースにしたアルコールニスを、修理やタッチアップに用いている。特別なこだわりがあるわけではないので、それほど特殊なレシピではないと思うが、数種類の天然樹脂を組み合わせて使う。その都度調合するのは不合理なようだが、アルコールに溶解したシェラックは、半年以上置くと古くなって乾燥に問題が生じる可能性が有る。筆者の所は使う量もそれほどではないし、樹脂のまま保存しておいて、必要な時に溶かして使う方が便利なのである。

これら天然の樹脂のかけらを見ていると、不思議なものだと思う。化石化したもの、半化石化したもの、全く化石化してないもの、強い匂いの有るもの、無臭のもの・・・先人達が探し出した様々な天然の樹脂を溶媒に溶かして塗るのだ。木材を加工している時もそうだが、この様な樹脂を取り扱う時も、積み重なった時間に敬意のようなものを感じるのである。

ニスについては、もっと詳しく語られているサイトも有るので、興味のある方はそちらもごらんになってはいかがだろうか。

ヴァーニッシュと天然樹脂 http://www010.upp.so-net.ne.jp/varnish/

2007年6月29日

駒の位置を測る

梅雨時は、湿度が高く魂柱が倒れやすい。 弦を緩めて駒の位置を修正するにはリスクの高い季節である。

自分で楽器をセットアップする事を推奨しているわけでは無いので、ここには具体的な作業方法は書かないようにしている。しかし、駒の位置を記録することをお勧めした以上、測り方くらいは書くのが筋というものかもしれない。以下、筆者はこうしているという程度の話である。

駒の両足のテールピース側に定規を当て(表板を傷つけないように)、f孔の内側のノッチまでの距離を測る。写真はG線側を測定しているところだが、E線側も同様に測る。これで、駒の弦長方向の位置が分かる。

次に、f孔の内側のノッチの頂点から、駒足までの距離を測る。これも先と同様E線側も測る。これで、駒の弦に直交方向の位置が分かる。

ついでと言えば何だが、駒が正しくセットされている時に、指板先端から駒の上端までの距離を測っておく事も参考になると思う。

これらの数値は、楽器の調子が悪くなった時などに道しるべとして役に立つが、もともと楽器のセットアップには幅があるから、あまり神経質になる必要は無い様に思う。

2007年6月23日

楽器の中心で駒を立てる

コントラバスは普段は、ソフトケースに入れて運んでいる場合が多い。
ソフトケースは、大抵の場合楽器を保護してくれるが、駒付近をヒットした場合には、楽器に損傷は無くても、駒が左右方向にずれることがある。
ずれた駒を元に戻す時、楽器の中心にしたい訳だが、楽器の中心とはどこだろうか。

表板が2枚接ぎの場合には、接ぎ面も参考になるかもしれない。しかし、コントラバスの場合、接ぎ面常に楽器のセンターとは限らないようである。
もっともオーソドックスなのは、f孔の内側のノッチを基準にするやり方だ。駒が正確に出来ているとして、内側のノッチから駒の足の外側までを左右等距離にすれば良い訳である。

しかし、その位置に合わせた時に、「どうも弦と指板の位置関係がずれている」ような気がしてきたら、悩みの始まりである。楽器の製作者は、充分に注意してf孔を製作していると思うので、筆者はf孔のノッチを優先したい気持ちは有るが、ずれる前の位置が別であったのなら、今の演奏者に合わせて、そちらも検討したい。元の駒足の跡が明確ならそれを参考に出来るが、そうでない場合も有る。
左右のf孔の上端どうしと、下端どうしを結んだ線を引き、その中点を基準にセンターを決めるやりかたもあるようだ。

駒を作る時には、駒足を楽器のセンターに合わせてから、弦と指板の相対位置を調整していくと思うので、本当なら悩みは無いはずなのだが、そうでないことも実際には良くある。しかし、標準的な配置と違うからと言って、間違いだと決め付ける事は出来ない。駒の製作者が試行錯誤して得た位置かも知れないからである。
さらに、センターの位置と指板と弦の関係だけでなく、バスバー側の駒足の位置がバスバーに合っていないとなると、さらに迷う要素は増える・・・。

駒がずれる前の楽器が調子良かった場合には、その状態が、楽器(と演奏者)に合ったセットアップだったと仮定して、まずはそこに戻すように色々やってみるしかないようだ。駒がずれるというアクシデントに備えて、楽器の調子が良い時には、f孔の内側のノッチを基準として、駒の位置を記録しておくことをお勧めしたい。

2007年6月20日

気乾含水率

充分年月をおいて乾燥させた木材でも、木材は水分を持っている。
木材中の水分を重量比で表したものを含水率という。大気中に木材を放置すると、徐々に乾燥して含水率が平衡状態に達する。この時の含水率を気乾含水率という。
気乾含水率に達するのは、材料の厚みや地域にもよるが、数ヶ月から1年はかかるという。

問題は、気乾含水率は地域によって異なるということだ。日本では15%前後である。ところが北米(カリフォルニア)では8%前後だと言う。楽器の形をしていても木材は木材だから例外ではないわけで、北米から日本に楽器を持ってくると、8%から15%になろうとするわけである。

この話は大雑把なところが二つあって、一つは、これが屋外の話だということである。誰も楽器を屋外に放置したりしないから、本当は屋内の状況を調べなければいけないはずだが、24時間365日完全に空調で管理された場所で無い限り、傾向としては似てると考えて良いのではないだろうか。
もう一つは、木材は乾きやすく湿気にくい性質を持つ事だ。直感的に言うと、湿気を取りこむ速度より、湿気を放出する時の方が速度が大きいのである。8%の材が本当に15%まで変化するかは筆者には分からない。ただ、楽器の材料はとても薄いので、湿度の変化に対する耐性はあまり無いように思われる。

「北米から持ってきた楽器でも1年くらい経てば安定してくる」という話を、回りくどく言うとこういうことになるのではないだろうか。

2007年6月18日

汎用のクランプ

家具などの木工で用いるクランプは、締め付ける力が強力なので注意して使う必要がある。

楽器の板は基本的に薄いし、針葉樹と広葉樹を組み合わせて使っているので、クランプの力が強いと、材料自体を破壊したり、柔らかい針葉樹のパーツが木殺しされたような状態になってしまう。木殺しとは物騒な響きの言葉だが、そのままでは復元しない状態に木繊維が押しつぶされているが、繊維が破断はしていない状態のことを指している。

しかし、指板の接着の時には汎用のクランプを使うこともある。指板とネックの材料は比較的硬いし、それぞれに十分な厚みがある。写真のクランプはパッド付きなので、締めた後を残さずに作業できる。(もちろん、締めすぎれば話は別だ。)必要なところには当木をして楽器を保護するし、特に上ナット周辺をクランプするときには、締めた時にかかる力を考えてクランプをかける必要がある。

2007年6月15日

ミュートなど


ゴム製のミュートで、駒とテールピースの間に取り付けるタイプのものは、脱着がしやすいし、黒檀製のもののように演奏中に落とした時に、周囲を凍りつかせる事も無い。

非常に良く出来ているのだが、モード・チューニングやウルフキラーにとっては、プラスにならないのでは無いかと考えていた。駒とテールピースの間についている事自体が都合が悪そうに思える。

経験上は、何故か、モード・チューニングには大きな影響はないようだ。このタイプのミュートがテールピースに比べて比較的軽いからか、緩い穴に弦を通すという取りつけ方が振動を妨げにくいからなのか。多少はテールピースのピッチを下げる方向に働くと思うが、もともとテールピースの振動モード(TP)自体にも分布があり、ミュート取りつけ後も、それほど大きな変化はなかった。

問題は、ウルフキラーとの共存である。写真の通り、ミュートを使わないときが問題で、ウルフキラーに接触して止まり、ウルフキラーの振動を止めてしまう。上手い事言いたくないが、ウルフキラーキラーだ。

ミュートもウルフキラーも、駒とテールピースの間に取り付ける以上、衝突は避けられない。困ったものである。

2007年6月12日

モード・チューニング(モード・マッチング)4

モード・チューニングにはどのような効果があるだろうか。
通常は、音量が大きくなることと、弾きやすくなることが期待される。弾きやすくなると言うのは、弓で弾いた時に「固い」「抵抗してくる」感じが減るという理解で良いと思う。

ただし、モード・チューニングは、全てのセットアップの最後に行う事が必要だ。先に書いた楽器の共振モードは、使用する弦の種類や弦高、指板の重さや長さ等によって変化するからである。上ナットや指板、そして駒と魂柱等をしかるべくセットアップした後でなければ、モードを一致させる意味がなくなってしまう。モード・チューニングは万能の魔法ではなく、他の全てのセットアップの最後に行う仕上げのセットアップだ。ケーキのイチゴだ。

また、楽器のセットアップはお近くの専門家に相談なさることを強く推奨する。先に紹介したモード・チューニングでは、テールガットの長さを調整するために全ての弦を取り去ると、魂柱が倒れる可能性が高い。ましてや、梅雨どきは相対的に魂柱が短くなる季節だから、殆どの場合は魂柱を一旦外す必要があるのではなかろうか。

例えば、楽器を仰向けに寝かせて、そっと弦と駒を取り外し、魂柱が倒れなかった場合でも、魂柱と表板の間が開いた状態で立っているだけの事もある。この時、少しでも揺らせば倒れてしまうし、倒れずに再度駒を立てて弦を張れたとしても、魂柱が表板の元の位置に再び接する保証はどこにも無い。

必要以上に楽器を神格化し、触れば祟りがあるかのように考える必要は無いと思うが、車のブレーキだってやはり中身を良く知っている人に見て欲しいのである。

2007年6月6日

モード・チューニング(モード・マッチング)3

以前B0を測定するため、筆者が椅子に乗って(楽器を吊るすための)縄を梁にかけていたら、妻が血相を変えて止めに来た。万が一にも楽器が落ちてはならないと丈夫な縄を使ったのが誤解を招いたようだ。
楽器を宙吊りにするしないはその時々で判断頂くとして、色々大変だが、ともかくB0のピッチを調べる。

着目するもう1つのピッチTPは、テールピースの振動ピッチである。TPを測定する場合は、楽器は作業台の上に寝かせていても良いようだ。開放弦が響かないように弦をダンプして、テールピースをそっとタップするか、テールピースのエッジをそっとはじく。カンカンというテールピース木部だけのモードではなく、ドンドンというテールピース全体が振動するモードがTPであることに注意する。TPはテールピースの重さや形状、テールガットの長さ、弦のテンション、サドルの高さ、テールガットの間隔などを変えると変化する。

これでB0とTPが手に入った。これらの振動モードの関係を調整することがモード・チューニングだ。B0との関係では、先のHutchinsらの資料では、TPはB0/2にマッチさせるのが良いという。しかし、コントラバスの場合は少し事情が違っていて、TPとB0のピッチは近いことが多いようだ。勿論これはケースバイケースで、一概には言えないが、筆者の場合はTPをB0に一致させるという方向でチューニングを行っている。

B0はネック/指板の振動モードだから、指板やネックを加工しなければピッチを変えられない。一方TPはテールピースを交換したり、テールガットの長さを変える事などで比較的簡単に変えられる。TPを変化させてB0に一致させるというのが、最も簡単にできるモード・チューニングの例だ。

※楽器のセットアップは、専門家を頼っていただきたい。ここでの記述は完全ではなく簡略化されたもので、例えば、テールガットの長さを調整するにも、適切な範囲がある。また、テールガットの長さを変えるための実際の作業には魂柱が倒れるリスクもある。

2007年6月4日

モード・チューニング(モード・マッチング)2

楽器の振動モードについて、簡単に説明する。日本語の用語や筆者の理解が適切でないかもしれないので、お気づきの方はご指摘頂ければありがたい。

A系列のモード(A0, A1)は、楽器の中の空気の振動モードで、容積や箱の強度によって決まるピッチである。B系列のモード(B0, B1)は、楽器の構造自体の振動モードである。TPはテールピースの全体の振動モードのピッチを示している。ちょっと小難しくなってきたが、先に書いたように、とにかく今着目するのは、B0, TPである。

まず、B0は、楽器本体の構造による振動モードで、単純に言えばネックと指板の振動モードである。振動のイメージとしてはネックの付け根を中心に指板の駒側の端と、スクロールが振れている感じだ。実際には楽器のボディ側も振動しているので、B0を測定するには、上ナット部分をヒモで結び、コントラバス全体を宙吊りにして、指板の端をタップするという。

筆者が実際にやってみたケースでは、楽器を宙吊りにしても、エンドピンを床につけて楽器を垂直にそっと支えた場合でも、それほどB0のピッチに変化があるとは思えなかった。ヴァイオリンと違い、コントラバスは空中に支えて演奏するわけではないので、楽器を垂直に立てて、ノードとなるネックの付け根をそっと支えて、指板の先端をタップしてピッチを確認する位でも良いのではないだろうか。

今までの経験では、B0のピッチは5弦音域のCからE辺りにあることが多かった。このピッチは、弦の種類(弦のテンション)を変えても変わるし、指板を延長したりエクステンションを付けたりして指板/ネックの重さを変えることによっても変化する。

2007年6月1日

モード・チューニング(モード・マッチング)1

先日、ある演奏家の方とのやりとりで、「弦高を下げたり指板を延長した時に音が曇る感じがする」という内容があった。弦の張力との関連が指摘されたが、弦の張力だけでは、指板を延長した場合の説明がつかない。

こういった現象をコントロールするのに、モード・チューニング(Mode tuning for the violin maker by Carleen M. Hutchins and Duane Voskuil CAS Journal vol. 2, No. 4 (Series II), Nov. 1993, pp 5 - 9)という手法を用いるのも1つの手段であろう。リンク先を読んでいただければ、それで終わりなのだけれども、それを言ってはお終いだから、コントラバスに関連すると言われている部分について、この際少しまとめておきたい。

モード・チューニングは、人によってはモード・マッチングとも言われていて筆者もそう言っていたが、上記の文献を引用したから、当面はモード・チューニングで統一する。

楽器には、振動しやすい振動パターン(モード)があって、その中のいくつかのモードを一致させる(マッチング、チューニング)ことで、音量や楽器の反応(弾きやすさの)向上をはかるというのがモード・チューニングの基本的な考えだ。それぞれのモードには対応するピッチがある。測定した周波数ではなくて、耳に聞こえる音程のこととして話を進める。

先の論文中(と付属のチャート)で述べられている、楽器の振動モードのうち、コントラバスで着目するのは、A0, W', B0, TPである。ここでは、もっとも簡単な場合について書くので、B0とTPに絞って話をまとめたい。B0は、楽器本体の構造による振動モードの1つのピッチを示し、TPはテールピース全体の振動モードのピッチを示している。

2007年5月22日

またまた膠(ニカワ)

くどいようだが、またまたニカワについて。

ニカワの原料には牛、羊、兎、鹿などの皮や骨や内臓などが使われている。原料によって特色があるようだ。国産のもので良く見かけるのは、三千本と呼ばれる棒状のもので、日本画の下地などにも使われる。これは牛が原料だ。

西洋のニカワも、原料が色々なのは同じだが、ニカワを専門にあつかうような店では、"gram strength"という単位が表記してある場合がある。どういう測定に基づく数値なのか、詳しくは知らないが、100未満から500以上までさまざまだ。数値が大きいほど早く固まり、強度も高い。しかし、あまり早く固まると、部材を合わせる前に固まってしまい、いわゆる「ニカワをかんだ」、不完全な接着になってしまう。また、数値が低いと作業時間に余裕はでるが、接着強度が足りないということになってしまう。150以下では強度が必要な接着には向かないようだ。

ヴァイオリン製作や、通常の木工では、200~250 gram strength位が適していると言われている。

2007年5月20日

また膠(ニカワ)

弦楽器はニカワによる接着というシンプルな接合で成り立っている。だからこそ(?)、ニカワの使い方自体に、さまざまな配慮がなされている。

その第一は濃度であろう。ご存知の通り、表板の接着には薄められたニカワ液が用いられる。薄めて接着強度を下げることで、表板を開けるメンテナンスを容易にし、「割れる前に剥がれる」という表板の保護機能まで持たせている。

その逆に、あまり剥がす機会の少ない、裏板や指板の接着には濃いニカワ液が用いられる。濃度をさまざまに調整することによって、場所毎の接着強度を調整しているのだ。また、ニカワは固まった後でも、温水を使って素材を痛めることなく完全に取り除ける。さらに、接着強度自体も、現代の接着剤と比べても強力な部類である。

通常ニカワは、粒子状やフレーク状のものから棒状のものまで、固形物の形で保存され、使用する前に水につけてから温度を上げ、溶かして使用する。一旦溶かしてしまうと、接着強度はフレッシュなものの方が強い。そのまま放置すれば、もちろん腐ってしまう。

朝ニカワ液を作れば、その日1日中は快適に作業できるだろう。次の日には、接着の信頼度は少し落ちるかもしれない。さらに翌日以降は、季節にもよるが、換気扇がないと辛いかもしれない。

2007年5月18日

膠(ニカワ)

コントラバスに限らず、弦楽器は木の細工の最たる物のひとつと言える。
しかし、指物などの技法と最も違うのは、凝った仕口が無いことではなかろうか。仕口とは、木と木を接合する方法の事で、指物にはさまざまな組み合わせ方がある。

弦楽器の場合は、殆どのパーツがニカワによって張り合わされている。平らな面同士を接着するのも仕口の1つと言えばそうだが、仕口らしいものは、ネックと本体の接合部分に、日本で言う「蟻」や「追い入れ」が用いられているくらいだ。 つまり、弦楽器は主にシンプルな接着によって作られている。何故、もっと強度が高く接着面積が広がるような仕口を使わないのか疑問に思っていた。

弦楽器の接着には、ニカワが用いられる。ご存知の通り、ニカワは、硬化後であっても温度や水分で元に戻る。この特性が弦楽器の修理を可能にしている事は良く知られている。考えれば、剥がす事が前提であれば、接着部分はなるべく剥がしやすくシンプルなものの方が良いに決まっている。入り組んだ複雑な仕口では、パーツを傷つけずに剥がすのは難しくなる。

ネック部分に仕口が用いられている場合があるのは、強度の問題があるのであろう。それに、ネック自体は消耗品(もちろんスクロール部分は違う)だから、外す時には本体側が傷つかなければ良いのだ。

2007年5月16日

裏板と湿度

まもなく梅雨だ。

フラットバックの楽器では、先に書いたように、裏板の伸縮を反りで吸収している。湿度が高くなって裏板が伸びる時には、クロスバーがその動きを止めようとするので、裏板には圧縮力がかかる。外見上は、裏板が膨らんでくるように見えるだろう。圧縮力である分には、直接割れにはつながらない。

しかし、逆に乾燥した時には、縮もうとする裏板をクロスバーが止めようとするので、引っ張る力がかかる。この時引っ張る力が材料の強度を超えると、裏板は割れてしまう。湿度による木の伸縮を止めることはできないから、裏板の割れを避けるためには、裏板が最も縮んだ状態で、クロスバーを接着すれば良いと言う事になる。つまり、最も乾燥した時期(裏板が最も縮んだ状態の時)、或いは湿度が低く管理された条件の中で行うのが良いという事になる。

2007年5月11日

エンドボールとフェルト


大抵のスチール弦のエンドボールには、フェルトがついている。

このフェルトは、何の為についているのであろうか。テールピース裏側のエンドボールが当る部分を保護しているのであろうか。そこは本当に保護しなくてはならない重要なところなのだろうか。


この疑問は、筆者のオリジナルではなくて、10年以上前に、在京の演奏家の方が言っておられた。正確には発言は、「こいつを外すと良いということに気づいた」だった。とにかく、このフェルトも音に影響を与えているというのである。


以来、筆者もつけたり外したり、何度かやってみた。フェルト無しで、弦が直接テールピースとつながっていた方が音量も出て、音色も明るく、サスティーンも長くなるような気がする。しかし、思いこみもあるし、弦を張りなおした直後の音色は、概して明るく響きがちだから、プラセボの範囲のような気もする。


もし、お持ちのテールピースが博物館級でないなら、やってみても損は無いと思う。良い結果が得られるかもしれない。気に入らなくても簡単に元に戻せるし、お金もかからない。

2007年5月8日

魂柱セットアップのツール


魂柱調整用の道具を紹介しよう。筆者が使っているというだけで、特にこれが正統だという訳ではない。

下から、魂柱ゲージと鏡、魂柱つかみ、ピックアップツール、位置調整用のブラスハンマー、定規類である。

魂柱ゲージは、筆者の場合、欠かせない。定規と組み合わせて使用し、魂柱の位置を測定する。

鏡は、表板と魂柱のフィットを、目で確認するために使う。魂柱を掴んでいる手応えでもある程度のフィットはわかるが、必ず視覚でも確認するようにしている。

魂柱掴みは、バネのついている側を押すと、反対側の手が開いて、魂柱を保持できる。これで掴んで魂柱を立てたり、倒れた魂柱を取り出したりする。その上のピックアップツールは、この魂柱掴みと機能は同じで、単に長いものを自作しただけである。

魂柱掴みで魂柱を立てた後、微調整はブラスハンマーで行う。

筆者は、S字型の魂柱立ては使っていない。特に理由があるわけではなく、単にやり方の違いだ。ただし、S字型の魂柱縦を刺すための溝はつける。魂柱の上下と、木目の方向の目印になるからである。

この他に、魂柱の長さを調整する場合には機械類も使うし、表板やクロスバーへのフィットを行う時には、ノミや小刀等の刃物も使用する。楽器の中を照らすライトも必需品だ。

2007年5月6日

駒と魂柱のセットアップ3

駒と魂柱、それぞれのセットアップについて書いたが、さらに両者をどう組み合わせるかが問題となる。

駒と魂柱の両方を同じ音質の方向にチューンしていくのか、または、あえて片方を明るめ、片方を暗めの方向にしてバランスをとるのか、応用するやり方は1つではないと思う。 もちろん、楽器の個体差もあるし、この辺が、専門家の腕の見せ所となってくる訳である。

しかし、筆者の経験の浅さを棚に上げて言うならば、比較的ダークで、柔らかい傾向のセットアップがなされている楽器が多いように思う。確かに、そう言うセットアップは、ゲージが太くて反応しにくい弦を弾き易くするとは思うが、片方でクリアさやエッジを失っているのである。

現実に演奏する上では、所属する団体の個性や制約もあり、好き勝手には出来ないと思う。とはいえ、そういう制約の無いところで、自分が良しとする音はどういうものなのか、先入観にとらわれずに向き合うことが必要なのではなかろうか。駒や魂柱のセットアップについて知ることは、その手がかりになるのではなかろうか。

2007年5月3日

駒と魂柱のセットアップ2

駒の位置が決まったら、魂柱のセットアップを行う。

以下、文章だけでは少し説明しにくいし、誤解を招くかもしれないので、参考程度に。実際の調整は、魂柱と表板とのフィットや、長さ調整などの作業も含まれるので、専門家に依頼したい。

魂柱は、G線側の駒の足のテールピース側にセットする。
最初にどこに立てるかは、人によっても違うと思うが、上下方向は、魂柱の駒側の端が、駒の足のテールピース側の端から、魂柱の直径程度はなれたところが良いのではなかろうか。左右方向は、駒の脚(足ではない)の幅の中が良かろうかと思う。


まず、魂柱を上下方向に動かすことはどういうことだろうか。

魂柱の上下方向の移動は、主に音色に影響する。

魂柱を駒に近づけると、おおむね音は「明るい」「はっきりとした」方向に変わる。悪く言えば「鼻にかかったような音」方向だ。そして、楽器の反応は「かたい」感じになる方向だ。

逆に駒から離すと、「暖かい」または「暗い」方向に変化する。悪く言えば「鈍く」「エッジの無い」方向だ。そして、楽器の反応は「柔らかい」「弾きやすい」方向と言える。


魂柱の左右方向の移動はどうだろうか。

魂柱の左右方向の移動は、弦の音量のバランスに主に関係する。

魂柱をG線側に移動すると、G,D線の音量が増す。変わりにA,E線は音量を失う方向だ。

魂柱をE線側に移動すると、A,E線の音量が増す。変わりにG,D線は音量を失う方向だ。


以上はおおまかな傾向の話であって、現実には各々が完全に独立に調整できるわけではない。

例えば、魂柱の上下方向の移動は、音域毎の音量のバランスにも変化を与える。左右方向の移動による弦の間のバランスだけでなく、音域毎のバランスも考慮しなくてはならない。

2007年4月30日

駒と魂柱のセットアップ1

楽器のセットアップには、

1)演奏しやすさを目的とするセットアップ
2)楽器の音のセットアップ

の両方の要素がある様に思う。もちろん、相互に無関係ではないが、弦高や指板のキャンバー等が前者の例で、駒と魂柱のセットアップは、まさに後者の代表的なものだろう。

ここは自分で簡単に触れるところではなく、通常は楽器屋さんにお願いするしかない。まず専用の道具が無くては作業は難しいし、駒足のフィッティングや魂柱の長さ調整が必要になる場合がある。

しかし、「どうやって」調整するかは専門家に任せるとしても、「どうなっているか」を知る事は損にならないと思う。生兵法はケガの元の危険はあるかも知れないが、専門家と相談するにしても、より具体的に相談しやすくなるのではなかろうか。

さて、前置きはこのくらいにして、

ご存知の通り、魂柱の位置は駒に対して決まる。
従って、駒を動かせば、それにともなって魂柱も動かさなければならない。まず、駒の事から考えてみたい。

コントラバスを正面から見て、スクロールの方向を上、テールピースの方を下とする。
通常は、駒の厚みのセンターが、楽器の中心よりのf穴のノッチ(切り込み)と一致する位置を、基準と考えてよい。この位置を基準として、上下に6mm程度が通常の調整範囲のようだ。

おおまかには、駒を上に動かすと「明るい」、悪く言えば「鼻にかかったような」音になる。しかし、上にしすぎれば、演奏する上では、「かたい」感じになるかもしれない。

反対に、下に動かすと、「暖かい」「柔らかい」、悪く言えば「暗い」音になる傾向だ。演奏上は弾き易い感じになるかもしれない。

駒の厚みに関して言えば、厚い方が「ダーク」、薄くなれば「明るい」方向のセットアップと考えて良いと思う。ただし、駒の厚みを薄くしすぎると、表板に接する面積が小さくなりすぎて、表板を損傷する恐れがある。

以上の話には、もちろん例外もあって、良い位置が上記の範囲に無い場合もある。また、上記の範囲内であっても、自分の気に入る位置を探すのは、なかなか大変な事だ。是非専門家を頼って欲しい。

2007年4月26日

木材など

木材は年数を経ると、強度が上がる。

表板に使われているトウヒやスプルースについては分からないが、同じ針葉樹のヒノキについては、「法隆寺を支えた木」(西岡常一、小原二郎, NHKブックス318)に記述がある。ヒノキは、200年くらいの間は強度が増えて、3割ほども強度が増すそうである。その後は徐々に強度は低下して行く。1300年経った現在の法隆寺の強度は、創建時と同程度になっているという。

木の強度が増えるのは、セルロースが結晶化するためで、このため弦楽器では、時代を経たものが製作時より良く鳴るという事が起こる。この、結晶化のピークは樹種によって異なるようで、広葉樹のケヤキは、新材の時は、ヒノキより強度があるが、このピークが無く、強度の下がり方も急であるということだ。従って、ケヤキは、400~500年ぐらい経過した頃ヒノキの強度に抜かれてしまう。

弦楽器は、表板がトウヒやスプルースなどの針葉樹で、裏板がカエデやメープルなどの広葉樹だ。
ヒノキとケヤキとは樹種が違うので、同様に扱うのは危険かもしれないが、数百年というオーダーは一般に言われている弦楽器の寿命と近い様に思う。

2007年4月24日

Cエクステンション(Cマシン)の製作など7


エクステンションの機能および外観の仕様が決まったら本番の材料で製作する。

今回は黒檀を使った。非常に高価だ。同じ黒檀でも、縞黒檀は比較的安価だが、真黒と言われる黒色に近いものほど値段も上がり、入手も難しい。黒檀の使用量を減らすには、本体のネックと同様に、メープルと黒檀を貼り合わせる構造にしても良いかもしれない。メープルは、黒檀より柔らかいので、スクロールへのフィッティングもやりやすくなる。

写真は、今回の一連の検討の結果に基づいて製作したエクステンションの本体である。写真には写っていないが、カポも黒檀で製作した。後は、金属のパーツを製作し、組み立て、楽器に取り付ければ完成だ。楽器に取り付けた完成状態の写真は、ホームページ(コントラバスのCマシン製作とセットアップ )の方を見ていただきたい。

2007年4月21日

Cエクステンション(Cマシン)の製作など6


エクステンションの機能の追及が終わったら、美学上の検討をしよう。

楽器の美しさにはかなうべくもないが、せめてその美しさを減ずる度合いを少なくしたい。

機能上の要求が明確であれば、成形の自由がある部分と無い部分がはっきりするので、これを頼りにする。

紙やトレーシングペーパーを用いたスケッチを行うのはもちろん、最終的にはモックアップで確認する。何をどう美しいと感じるかは人それぞれなので、この段階は最もクリエイティブになれる段階かもしれない。紙上ではベストに見えた形も、三次元になると見え方が変わってくる。モックアップに直接書きこんで形を検討して行く。エクステンション本体は勿論カポも同様な過程を踏んで検討する。

2007年4月18日

Cエクステンション(Cマシン)の製作など5


さて、エクステンションの指板部分の形が固まったところで、カポの検討に入る。

カポは、好みによっては全く無しでも構わない様だが、Eのカポは最低限有った方が演奏しやすいのではなかろうか。また、Philharmonia Orchestra のビデオクリップでは、オクターヴの連続を弾く場合の要求として、Eに追加してCisのカポの必要性も言われている。

前置きはこの位にして、Eのカポから検討に入る。ここでは、もちろん機能上の要求を満たす事を追求する。写真の様にモックアップ上で、必要な大きさや取り付ける角度などを検討する。取り付け角度が適切でないと、一度弦を押さえてからでないとカポが閉まらないという事になる。さらに、カポを綴じた時に弦間隔を正確に保持できるよう、筆者の場合は、弦に当る面をV字の形に成形して、カポが弦を「キャッチ」するような形にしている。

Eのカポが終われば、その他の音程のカポも同様に検討して行く。Eのカポは取り付け部分の制約があるので、例外的な扱いが必要になるが、その他の3つのカポ(Es, D, Cis)についてはほぼ同じ形で製作している。

使用するボルト等の金物類の選択も、長い目で見れば重要だし、金物類がプアでは情けない。ここではサビと質感に配慮して真鍮製の物を使用している。もちろん真鍮メッキではなく、ソリッドの真鍮のものを選んでいる。ただ1点、マイナスのボルトを使用しているのは単なる意匠上のこだわりである。見た目がスッキリと納まるように思うのだが、最近ではマイナスネジが絶滅に近い状況なのは惜しい。

2007年4月16日

ウルフキラーのセットアップ補足

ウルフキラーの前の投稿が分かりにくいという話もあって、具体的な作業として筆者がどうしているかを補足したい。

まず、最初に「ウルフキラーのピッチをウルフの音程にあわせる」作業では、

1.ウルフキラーを駒とテールピースの間の真中につける
2.ウルフの出る音程を弾きながら、少しずつ端に寄せて、ウルフが最も弱ま場所を耳で探すか、ウルフキラーが最も良く振動する場所を目で見て探す。

というやり方を提案したい。これなら真中から半分だけ調べれば良いし、通常は完全に端まで寄せる事もまず無いから、ウルフキラーを移動させて調べる範囲はかなり限定される。この真中から半分というところがミソなのである。

もし駒よりで良い場所を見つけたら、同じ分だけテールピース寄りにしても同じ効果が得られるはずなので、そちら側も試して欲しい。ここは推測だが「ウルフに対する効果が同じなら、駒から遠いところにつけた方が、全体的な音色を変えにくい」のではなかろうか。これは推測なので、どちらが良いかは試して判断して欲しい。


以下は「ウルフキラーのピッチを、ウルフの音程からほんの少しだけずらす」の方だ。

普通はウルフは止まっても音色がダークだったり、ウルフのでる音程のそばの音程にも影響がある。そこで、例えば、ウルフの出る音程がAだとしてBあたりもダークになってしまうとしよう。ウルフキラーは端に寄せるほど共振するピッチが高くなるので、Bから遠ざけるには先に調べた位置からウルフキラーを真中よりに動かせば良いと言うわけである。すると今度はAsがダークになりそうだがその辺は個別に探ってほしい。通常はウルフキラーの共振する周波数には巾が有るので、その巾を上手く上下の半音の間に入れつつウルフを弱めるというイメージだ。この辺は、ウルフとのトレードオフになってくるわけである。

最近では、ウルフのゴム部分をなくしたウルフキラーもあるようだ。実際に試した事がないので推測の域を出ないが、ゴム有りに比べて共振周波数の巾が狭くなると推測されるので、ウルフ周辺の音には影響が少ないのかもしれない。もっと憶測をたくましくすれば、ウルフトーンにもある程度の分布があるはずだから、この分布に近い共振周波数の巾を持った素材が、ゴムと金属の中間にあるのかもしれない。

いずれにしても、これらの作業方法が絶対正解だなどと言うつもりは全くない。ただ、何らかの手順でウルフキラーのセット方法をやりやすいものにできないか考えてみたいのだ。

2007年4月13日

ウルフキラーのセットアップ

ウルフキラーの作用の原理とセットアップについて、少し整理がついて来たように思うので書いてみたい。原理については仮説の部分もあり、話半分に聞いていただいて、主にセットアップ方法についてクリアにして行きたい。

ウルフは、楽器本体のモードと弾いている音の共振(共鳴?)によって起こる。2者の間での共振であるので、互いにうなりを生じたり、振動が抑制されたりする。ここに「同じ共振周波数を持つ第3者を参加させることによってウルフを低減する」のが筆者が最近考えるウルフキラーの原理である。音叉2つで行う共鳴の実験は良く目にするが、音叉3つではどうだろうか?事例をご存知の方はお教え頂ければ幸いである。

ともかく、それならば、ウルフキラーのセットアップとは、ウルフキラーをウルフの音程で振動するようチューニングすることだ。ウルフキラーの共振周波数(以降ウルフキラーのピッチと言う)はウルフキラーの位置を変えると変化する。ウルフキラーを端に寄せるほどこのピッチは高くなる。ウルフキラーを移動させてチューニングするわけである。

通常言われているセットアップは、ウルフキラーを ウルフが最も弱まる位置に合わせる、すなわち、

1)ウルフキラーのピッチをウルフの音程にピッタリあわせる

で終わりなのだが、他の音に影響したりウルフのピッチに近い音がダークになったりと、不満が出てくることが多い。そこで、

2)ウルフキラーのピッチを、ウルフの音程からほんの少しだけずらす

事を是非試していただきたい。問題が解決するとは限らないが、試す価値はあると思う。

この時、ウルフキラーのピッチがウルフの音程より高くなるようにずらすのか低くなるほうにずらすのか2通り選べるわけで、どちらかより良い方を選択する。ずらす距離は、かなり微妙と考えていただいて良いと思う。 1)の作業を終えた時にウルフキラーが端に寄っている場合ほど、ずらす距離に対する反応はシビアになる。

2通りだけなの?と言うと、もうお気づきの方もおられると思うが、実は選択肢はまだある。1)の作業を行った時に、ウルフキラーの位置が駒かテールピースのどちらか側に寄っていることが多い。もしそうなら、今ついている側の反対の端に寄せても同じ音にチューニングできるのだ。つまり、1)の状態を実現するのに、駒寄りかテールピース寄りかどちらか選べるということだ。
駒寄りしか試した事の無い方は、テールピース寄りも調べてみる事をお勧めする。ウルフキラーが弦の糸の巻き線上に来て、ずらしにくい事があるが、その場合には、一旦ウルフキラーを外し、ゴムの部分だけを先に付けてから、本体を付けなおしてみて欲しい。

結局、ウルフキラーのセットアップには、

1)ウルフキラーのピッチを駒寄りかテールピース寄りかで、ウルフの音程にピッタリあわせる
2)ウルフキラーのピッチを、ウルフの音程からほんの少しだけ高い方か低い方にずらす

の組み合わせで4通りの選択肢があるということになる。4通りの中からベストを選ぶという方針で作業を進めれば、「なんだか良く分からないけど、ベストな位置を探す」よりは、良い位置が発見しやすくなるのではなかろうか。

最後に蛇足だが、通常はA線の駒とテールピースの間に付けることから始めて、ウルフトーンにチューニングできない場合に、他の弦を試す方向で良いと思う。標準的なウルフキラーの重さは、大体そういう前提に合わせてあるようである。

2007年4月10日

Cエクステンション(Cマシン)の製作など4


モックアップ(試験材料)を、先に行ったマークをもとに成形する。

最初は、専ら機能上必要な部分を切り出して行く。エクステンション上を押さえる時の補助となるサムレストの具合や、エクステンションをつけた状態で他の弦が交換出来るかどうかなどをチェックする。

また、(エクステンション上の)指板の巾やキャンバー、Rなども確認する。マークした音程が合っているかも確認する。筆者の場合は、弦長を元にした平均律にしている。写真では、先端にプーリーを入れて弦を張ってあるが、まだ固定はしていない。エクステンション側の弦高もこの時点で決める。

これらは時間と手間のかかる作業だが、全て機能上の要求だからエクステンションの使いやすさに直結するものばかりだ。万全を尽くしたと思っても、見落としや不都合が出てくる可能性は常にある。我慢のしどころだと思う。
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本投稿はエクステンション製作の概要であって、実際の製作に必要な細かな手順や様々な道具、知識などには触れていない。
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2007年4月7日

適切なセットアップ

時折、力が無くて弦を押さえられないというような話を耳にする。
確かにコントラバスは大きいし、他の弦楽器に比べて弦のテンションも強いが、押さえるのが大変な第1の原因は、セットアップが適切でないことに尽きると思う。

そこで、以前に出た話題もあるが、ブログ開始1ヶ月記念ということで、適切なセットアップについてまとめてみた。もちろん、実際に行う時は信頼できる楽器店に相談することをお勧めする。

(1) 適切な弦の選択。太くてテンションの高い弦は、もちろん押さえにくい。もし自分の使っている弦に、ゲージが色々有るなら、無理をせず、他のゲージを試しても良いと思う。細い方から、Weich, Mittel, Starkと書いてある場合もあるし、light, medium, heavyと書いてあることもある。指を壊すくらいなら、細くてテンションの弱いゲージを選ぶべきだ。あるいは、弦のメーカーや種類を変えるべきだ。
以下の全てが出来ない場合、弦の交換だけでも相当楽になると思う。

(2) そしてまず、駒側の弦高だ。
以前の投稿で、標準的な値として6,7,8,9mm(G,D,A,E)を揚げたが(指板の駒側の先で測った値)、これより下げられるケースも多い。指板のRが極端に小さい楽器では、他の弦に挟まれた弦(D線やA線)が弾きにくくなる事があるから、その辺は考慮しなければならない。

(3) 次に上ナット側の弦高。
これは可能な限り低くする。指板のキャンバーが適切なら、紙一枚分位と言っても良い。上ナット側の弦高が、ミリ単位で測れるようだと、ハーフポジション辺りはさしずめ地獄だ。

(4) そして、指板の適切な反り(キャンバー)。
適切なキャンバーがあると、指板の全範囲にわたって弦高が平均化する。キャンバーは正確な円弧状で、最深部も適切な位置に無ければならない。

(5) さらに、弦同士の間隔が広すぎるのも良くない。
弦間隔は、上ナット上の間隔と、駒上の間隔があるが、いずれも広すぎてはいけない。広すぎると弾きにくいだけでなく、楽器の鳴りも抑制してしまう。

もし楽器を弾くのに、指を痛めるくらい力が必要なら、以上のポイントを中心に、是非楽器店に相談してみて欲しい。(1)~(3)までならそれほど費用もかからないはずである。
握力を鍛えるのは、自分の楽器のセットアップをチェックしてからでも遅くない。

2007年4月6日

Cエクステンション(Cマシン)の製作など3


写真は先にマークした基準をもとに、必要な大きさに切り出した試験材料(モックアップ)をのせたところである。

試験材料は必要な大きさにプラスαしてあるので、多少バランスが悪い。スクロール部分と、糸倉のほおに当る部分は大まかに切り取ってある。ピッタリに切れれば良いが、多少切り込み加減にして、シムで調整する位でもよい。

エクステンションを取り付けるために、従来の上ナットの一部が切り取られている事にお気づきと思う。エクステンションのモックアップには、弦の通り道やカポの位置、さらに弦をおり返す滑車の位置をマークしてある。指板と接する部分の木口には、指板のRもマークしてある。これらの位置を押さえた上で全体の輪郭線を決めて行く。

写真からお分かり頂けるように、エクステンション本体はスクロールの上に乗るので、スクロールが出っ張っている楽器では、エクステンションを取り付けにくい。幸いこの楽器では指板のキャンバーの延長線とスクロールの間に、充分な空間がある。

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本投稿はエクステンション製作の概要であって、実際の製作に必要な細かな手順や様々な道具、知識、木工の技量などについては触れていない。くれぐれもご注意頂きたい。
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2007年4月4日

Cエクステンション(Cマシン)の製作など2

指板を延長するタイプのエクステンションでは、大雑把に言って、スクロールを切り込んで延長指板を埋めこむやり方と、スクロールを保存するため延長指板をスクロールにフィットするよう加工するやり方がある。

前者はスクロールを大きく切り取ってしまうが、延長指板の加工が楽なので、スクロールを保存するほどでもない楽器(失礼。)の場合に適している。後者はスクロールへの加工は最小限で済むが、延長指板をスクロールにフィットさせる作業にコストがかかる。

---注意---
本投稿はエクステンション製作の概要であって、実際の製作に必要な細かな手順や様々な道具、知識、木工の技量などについては触れていない。また、取り付けが可能な場合について述べているので、楽器によってはもともとエクステンションの取り付けが難しい場合のことは書いていない。くれぐれもご注意頂きたい。
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さて、どちらのやり方でも、エクステンション製作で最初に行うのは、弦を買う事だ。Bass ext. E string等と言って売っているエクステンション用に延長されたE線を手に入れる。

この弦を使って、指板を延長するための基準を割り出す。基準を出すだけならタコ糸でも構わないが、いずれにしても使うし、ナット部分を作成したりカポを調整するには、使用する弦の太さも必要となる。

楽器に、ext. E線を張り、端を持ってスクロール上部にあてがう。上ナット上の弦間隔が他の3弦の弦間隔と同じになるような位置を探す作業だ。従来のE線を延長すると、スクロール上のどの位置を通るのかを正確に知りたい訳である。位置が分かったらスクロール上にマークする。表板の養生や何でどうマークするとかそういう細かい事には触れない。

このマークが全ての基準となる。このマークの位置と、糸倉のほお(cheek)の位置などから、必要な材料の大きさを割り出す。筆者の場合は、テスト用の材料を使ってモックアップを製作する。本番の材料は高価なので、そうそうやり直すという訳には行かない。

2007年4月1日

Cエクステンション(Cマシン)の製作など1

5弦はネックも太いし大きいからと躊躇していても、low-Cまで弾けたら良いなと思っている方もいらっしゃると思う。 自作というのは中々難しいかもしれないが、興味をおもちの方もおられるかもしれないので、Cマシンを製作の様子を概略お話したい。

4弦のE線を延長して、low-Cまで弾けるようにする装置がCエクステンション(Cマシン)だ。
国内的にはCマシンの方が通りが良いと思うけれども、正式名称かどうか分からないし、筆者の教科書にはC-extensionと書いてあったので、ここではCエクステンション、またはエクステンションと書くことにする。

製作の内容に先だって、エクステンション種類について少し。
エクステンションには大きく分けて2タイプがある(正確な分類でないかも)。タイプライタータイプとも俗称される機械式のものと、指板を文字通りエクステンションしたタイプ。機械式はキーを押さえて音程を出し、弦を直接押さえない。指板を延長したタイプは、弦を直接指で押さえる。

指板を延長したタイプには、Eのところにカポが付いていて、開放をCにするかEにするかを変えられるのが普通だ。さらに、E以外の音程についてもカポがついているものもある。E以外の全ての半音にカポがついていると要所要所で、開放を変えられて便利なようだ。

ここでは、指板を延長したタイプのものについて筆者の製作過程を書いていこう。

2007年3月30日

弦高の変動など5

木材の伸縮など、色々考える事は面白いけれども少し実際的な事も書かなければ、ただの妄想で終わってしまいそうだ。

実際には、湿度が高くなると弦高が高くなることが多いようだ。そして、魂柱は緩くなる。魂柱の長さは湿度では変化しないから、楽器の内寸が大きくなると言う理解で良いと思う。だから、湿度が高くなった時に、弦高を調節しようとして駒を外すと、魂柱を倒す危険が高い。

2007年3月29日

シェラックなど1


シェラックとは、ラックカイガラムシの分泌液を精製した樹脂で、アルコール溶解性であり、楽器のニスにも使われる場合がある。シェラックは、写真のフレーク状のものをアルコールに溶解して使う。

家具には単体で使用するが、シェラックは硬いので、楽器のニスには他の比較的柔らかい樹脂と混ぜて使われるようだ。硬すぎるのである。シェラックが全く含まれないレシピも有る。ニスのレシピの話は、筆者の能力を超えるとても大きなテーマなので、レシピの話ではなく、ちょっとした事を書く事にする。

例えば、楽器全体でなく部分的な補修のことを考える。コントラバスの場合、下にして置く側のエッジが痛みやすいので、ここをタッチアップする時にシェラック単体、あるいはシェラックの比率を高くするというのはどうだろう。全体を硬いシェラックで覆うのは良くないにしても、エッジ部分を保護するだけなら、音への影響も避けられると思う。

2007年3月27日

テールガットなど


テールガットの素材には、針金状のもの、ワイヤ、新素材のヒモ状のもの、ナイロン製のもの等が有る。

針金状のものは最も剛性が高く、一般的にはあまり良くないそうだが、楽器によってはフィットするものもあるかもしれない。楽器はそれぞれ違って、一般的なルールから外れたセットアップがその楽器には最適ということがあるからだ。端部にネジの切ってあるナイロン製のものは、触った事が無いのでここでは触れない。

一般に剛性が高いと良くないというのは、テールピースも自由に振動できた方が良いからのようだ。その点、新素材のヒモ状のものは、柔軟性では最も優れていそうだ。ヒモ状テールガットでは、長さの微調整は結び目を解いて結びなおす事で行う。しかし、手で結ぶ力は、弦の張力(100kg以上?)にははるか及ばないので、弦を張ると結び目が締まる分伸びてしまう。最終的に落ちつく長さを予測して結ばなければならない。 テールピースのピッチを調整する場合には、これがなかなか根気のいる作業だ。

ステンレスワイヤは柔軟性ではヒモに1歩譲るが、テールガットの長さ調整は圧倒的にやりやすい。筆者は写真のようなスリーブを使うが、他にもワイヤを固定する金具はいくつかあると思う。ワイヤーの太さが2.5mm程度のものを使っている。細い方が柔軟性が高いが、強度が落ちる。太すぎると強度は高いが柔軟性が無くなる。ワイヤーの端は熱収縮チューブで処理している。

2007年3月26日

魂柱など2の訂正

「魂柱など2」で、魂柱の一般的なサイズ(直径)を16~19mmとしていたが、これは間違いで19~22mm位が正しい。
16mmは魂柱としてはかなり細く、場合によっては表板に損傷を与える恐れがある。ただしこれもケースバイケースで、楽器の音がダークで他に仕方が無い時には、このような細い魂柱が用いられるケースもあるという。

ちなみに、魂柱の径が細くなれば音色は明るくなるようだ。
魂柱の材質が硬くても(年輪の密度が高くなれば)音色は明るくなるらしい。

魂柱など2

魂柱の一般的なサイズは16~19mm19~22mm位で、貼られる弦の張力にも寄ると思うが、あまり細いものは表板に損傷を与える恐れがある。

素材は一般には松やスプルースの類で、木目が通直で年輪が詰まっている方が良いという。針葉樹の場合年輪の色の濃い部分は冬目だから、年輪の間が狭い材料は密度が高く、強度のある材料ということになる。この年輪が表板の木目と直交するように楽器の中で立てられる。

では、合板の楽器の場合はどうなのか?「どんな楽器でも、正しくセットアップされていれば、(その性能の範囲で)楽しく弾ける。」という観点から合板の楽器についても考える価値はあると思う。

合板の楽器の場合は、魂柱の材質をハードウッド(広葉樹)のものに変えると良い場合があるらしい。実際の経験が無いので、断定的に言う事はできないが、確かに、合板の場合は密度も違うし、振動に対する抵抗も無垢の素材とは異なるため、最適な魂柱の素材も、針葉樹では無いかもしれない。
ハードウッドの例としては、ビーチ(ブナ)やメープル(カエデ)などが候補にあがる思う。

2007年3月25日

糸倉の中で


弦を張るとき、糸巻きに他の弦が干渉する事がある。
本来は弦とペグが干渉しないような位置に、ペグ穴があいてないといけないのだろうが、オリジナルのペグが着いているとは限らないし、もともと3弦だった楽器などは糸倉も小さいので、スペースに余裕がないのかも知れない。

ともかく、ペグに干渉するだけならまだしも、弦同士が干渉すると他の弦の調弦まで変わってしまう。これをなるべく回避したい。さらに、ナットからの角度がなるべく緩くなるようにしたい。あまり急な角度がつくと弦に良くないだけでなく、チューニングもしにくくなる。

そこで、写真の様な配置に巻く事が多いのではなかろうか。読むのも億劫かもしれないが一応説明すると、

・E線のペグは、他と干渉することはあまりない。
・A線はD線の通り道を右側(以下左右は上記写真での話)に確保しつつ、巻き終わりがなるべく左に寄るようにする。
・G線は左に寄せたA線の近くから右に向かって巻き始め、最後の一巻を間隔を空けて巻き、D線の通り道を作る。
・D線は、左から巻いてA線の右側を通り、G線の通り道を通る。

G線とD線が交差するところが今1つ綺麗でないけども、弦同士が擦れあうのは避けられる。もっと良い巻き方があるかもしれない。弦の巻き始めを穴に長く差込んで巻き数を減らすのは、弦への負荷とチューニングの安定性からあまり推奨されないようだ。

2007年3月24日

弦高の変動など4

「弦高の変動など3」までの考えをまとめると、

湿度が高くなると、
・表板は、弦高が高くなるように
・側板は、弦高が低くなるように
・裏板は、弦高が低くなるように
それぞれ動くと思われた。

弦高が高くなる方と低くなる方の両方の要素があるので、湿度が高くなると弦高は高くなるのか低くなるのかは分からない。それにこれらの話は実験で確かめていないから、あくまで机上の話(しかも定性的な)でしかない。湿度が高くなると本当に楽器のアーチが高くなるのか、測定してみなければ分からないことだ。それに、実際の条件はもっと複雑だ。これまでの話では、表板や裏板の外周は側板によって固定されていると仮定してきたが、側板自体薄いので実際は変形しているかもしれない。表板と裏板は材質も違うし、何といっても表板にはf穴という穴が空いている。

しかし、楽器が無垢の木で製作されているのは事実だ。無垢の木で製作されている以上、材料の伸縮を吸収する仕組みが必ず必要だ(と思う)。もし、楽器のアーチがその役目を果たしているとすれば、驚く事だし、とても優れたデザインと言えると思う。しかも、弦高に対しては、互いに相殺するような機能があって、湿度の変化に対して弦高を一定に保つ働きをしているのではなかろうかと想像するのは、飛躍が過ぎるだろうか?

2007年3月23日

またまたまたアジャスターなど


駒の高さを変えるアジャスターでは、注意する事がある。
以下では、アジャスターの円盤部分より上を脚側、下を足側と呼んでいる。

アジャスターの下面は駒の足側に付いてはいけない。つまり、アジャスターを駒の足に完全にねじこまず、少し隙間が開いている方が良いようだ。駒の足側(アジャスターの下側)には、アジャスターを受けるネジが切ってあり、アジャスターのネジが入っている。音の面からいくと、アジャスターと足はネジ部分でのみつながっている状態が好ましい。らしい。

一方、アジャスターの上側の面と駒の脚が接する部分は密着していなくてはならない。また、脚内部にはアジャスター上部のピンが刺さっているが、このピンの穴がピンと干渉してはいけない。ガバガバでは困るけど、きつくてはいけないという事だ。筆者の解釈では、脚とアジャスター上部の密着度が大切で、ピンは位置決めの役目をしているだけだ。

また、アジャスターを付けると駒のフレキシビリティが上がるので、駒の反りへの対応が柔軟になるけれども、アジャスターのネジ部分にも負荷がかかるので駒の反りをこまめにチェックした方が良いようだ。アジャスターのネジを受ける部分(メネジ)は、多くの場合木質のままなので、アジャスターを回す時など、少し弦を緩めて負荷を減らした方が安全と思う。

2007年3月22日

テールピースなど1

テールピースの素材や種類が各種あって、替えると音が変化するというのは良く知られていると思う。しかし、セットアップした後、テールピースのピッチ(タップトーンという方が正確か)の扱いについては、あまり知られていないのではなかろうか。

ピッチに関することでは、(テールピースの)ナット部分が可動になっていて、テールピースと駒の間の弦のピッチを調整できるものがあるし、また、この部分の弦のピッチが特定のピッチになるように間隔を調整するという話も聞いたことがある。弦長の1/6という値も目にした。 この部分に重りをつけて、ウルフトーンを軽減しようというのがウルフキラー。ウルフのピッチは楽器によって違うが、 ウルフキラーをスライドさせる事で共振ピッチを変えられるので、多くの場合は対応できる。

テールピース全体も(巾はあるが)共振するピッチを持っている。これが冒頭に書いた、テールピースのピッチの事だ。テールピースを弓で弾いた事がある方は良く分かると思う。脂がつくけど。テールピースの素材や種類を替えると音が変化するというのは、このピッチが変化する事にも原因がある。

2007年3月21日

クランプなど


表板や裏板を接着する場合にはエッジクランプを使うのが便利だ。

比較的簡単に自作できるし(買った方が安い?)、曲線のエッジを圧締するにはとても良い道具だと感心する。コントラバスは形やサイズが各種あるので、ヴァイオリンのような定型のクランプにならない所が残念だが、いずれにしても一挙に接着できるわけではないので、残念とは言えないかも知れない。
コントラバスの大きさゆえ、汎用のクランプが登場する場面もあるが、汎用のクランプは締める力が強いので、使う場所と締め加減に注意しなくてはならない。コントラバスの側板の厚みは薄いので、締めすぎると楽器を壊してしまう。

2007年3月20日

弦高の変動など3

表板や裏板の「たわみ」が「弦高が湿度で変化する」ことに影響を与えている仮定して、どのように影響を与えていると考えられるだろうか。
表板、側板、裏板に分けてそれぞれの伸縮に伴う動きを考えてみる。

表板は、側板という枠に周囲を接着されているので、湿度が高くなって巾が広がった場合、アーチの方向にたわんで(ふくらんで)来るように思われる。これは駒を押し上げる方向なので、弦高が高くなるように作用すると思う。

側板の巾方向(木繊維に直行する方向)は、動きに制約を受けないので、湿度が高くなると単に巾が増えるだけだ。つまり楽器の厚みが増す。楽器の厚みが増えると、相対的に魂柱が短くなってしまう。魂柱には表板を支える役目も有るから、支えが短いと弦からの圧力で表板は沈み、弦高は低くなるように作用すると考えられる。

アーチのある裏板の場合、湿度が高くなると表板同様アーチの方向にたわむ(ふくらむ)ように思われる。アーチの方向が表板と反対側であるから、魂柱が緩む方向にたわむ。ということは、側板と同様の効果で表板は沈み、弦高は低くなる方向に作用しそうだ。

ではフラットバックの場合はどうか。実はフラットバックの場合もアーチのある裏板と動く方向は同様になる。フラットバックは内側にクロスバーが接着してあって、内側の伸縮を止めている。しかし湿度が高くなると裏板の巾は広がろうとするから、内側より外側の方が長さが伸びるように反る。すなわちアーチのある裏板と同様に、湿度が高くなると、弦高は低くなる方向にたわむように思われる。

2007年3月19日

また上ナットなど


上ナットの弦間隔は弾いている分には意識しにくいポイントかもしれない。
間隔が一定で可能な範囲で狭くした方が良いようだ。弦の間隔に配慮されたナットで弾くと演奏しやすいように思う。間隔を狭くすることは、不思議なようだが、楽器の鳴りにも影響するという。

ナットの弦間隔は弦のセンター間で測る。ナット製作の時には、最初にマークしてから丸ヤスリで弦の通る溝をつける。丸ヤスリは切削の方向性が無いので、常に測りながら作業しないと最初にマークした位置からずれてしまう事がある。また溝の深さでナット側の弦高が決まるので、弦をのせながら作業を進めるのがやりやすいかもしれない。写真のナットは製作途中で端部の成形などはまだされていない。

2007年3月18日

楽器の足(?)など

コントラバスは側面を下にして置かれる事が多いので、表板や裏板のエッジが痛みやすい。
これを防止するために、床に当る部分に黒檀等で「足」がつけてある場合がある。

足がついているとエッジが痛みにくいが、足の大きさが小さいと、置いた時に重さが局所的にかかることになるのがちょっと気になる。この辺は、エッジの保護と側板への負荷とのトレードオフになる。黒檀などの硬い材質でなく、ある程度の面積がある厚手の革を貼って足にする方が負荷は小さいという。革の場合は見た目が良いといえるかどうか。外観も重要。

2007年3月17日

魂柱など1


魂柱の調整は、高度に訓練された専門家の経験と勘が物を言う・・・とは思う。
しかし一方で、そこまで高度なレベルで無くとも、一定のレベルまではコントロールが可能だ。駒に対する位置を記録し、カルテを作るのだ。記録があれば位置の再現もできるし、 調整を追い込んで行くこともやりやすくなる。
特にコントラバスの場合は楽器が大きいので測りやすい(と思う)。魂柱用のゲージをf穴から差込んで駒からの位置を測定する。魂柱の位置は駒との相対位置なので、勿論駒の位置も記録する。写真は測定の一場面を撮ったもの。黒い物がゲージで、ゲージの左端が魂柱の駒側の端の位置を表している。
この測定もそうだが、f穴を介した作業では、f穴を傷付けないよう注意を払う必要がある。f穴を介した作業は頻度が高いので、「わずかな傷」でも簡単に蓄積してしまう。

2007年3月16日

またまたアジャスターなど


アジャスターの材質には、真鍮、アルミ、黒檀等がある。手元に無いので黒檀のアジャスターの重さは分からないが、真鍮のものは35g前後、アルミのものはその半分くらいの重さがある。実際にはペアで使うので、総重量は倍だ。黒檀製のミュートの重さは60g位であることを考えればかなりの重量だ。 つける位置が違うので一緒には出来ないと思うが。
実際、真鍮製のアジャスターを付けたからと言って、ミュートを付けた時の音になるわけではない。好ましい音色に変化する事だってある。ただ、セットアップの方向を全体として一致させる様にするためには、アジャスターの重量も考えに入れた方が良いのではなかろうか。重く太い弦を張って重厚な方向にするのか、細く軽い弦で反応を良くしたいのか、そういう方向性と。
写真は真鍮製のアジャスター。真鍮製は重いが見た目の高級感があり、外観上は楽器の付属品として最もフィットしているのも悩ましいところだ。

2007年3月15日

エンドピンなど

エンドピンのゴムは消耗品として考えられていないのだろうか?
たいていの場合、純正品(?)のゴムだけを気軽に買うという訳にはいかない。ゴム部分は必需品なのに。先の尖った金属棒を床に刺すという日常良くある行為を、いつも快く許してもらえるとは限らない。

消耗してきた時には、仕方なく、椅子等の脚端部品として売られているゴムを買って来ることになる。この脚端部品、実用上は差し支えなくても、見た目が今1つになってしまう事が多い。内径は比較的種類があり適合するものを選べるが、ゴムをはめるスリーブ部分と丈が合わなかったり、形が今1つだったり。細かいことだけど、どうも気になるのだ。

消耗品なのに交換部品が手に入らないのは辛い。流通の問題なのか?それとも私が知らないだけで、最近では専門店で気軽に買えるようになっているのだろうか?

2007年3月14日

弦高の変動など2

コントラバスで驚くのは、一見したところ、木材の伸縮を吸収する仕掛けが見当たらないことだ。ロワバウツの巾は70cm位はあるから、その1%(弦高の変動など1参照)は7mmにもなる。

無垢材の家具では、繊維が直交するような接合をする場合、伸縮を吸収するため接合部が動けるように作る。もちろんガタガタでは機能が果たせないので、密着はしているが伸縮方向には動けるようにする。蟻型の溝の中を材料がスライドできるようにしたり、木ネジの穴を長穴にする。接着は部分的には出来るが、全体を接着してしまうことは出来ない。

ところが、コントラバスを含む弦楽器では、全ての接合個所は膠(にかわ)で接着されるので、動く余地が無い様に思える。今まで「長年シーズニングをした十分に乾燥させた材で製作しているので、伸縮は無視できるのかもしれない」と自らを納得させていた。無理やりだ。伸縮を無視するにはコントラバスは大きすぎる。人生晴れの日もあれば、雨の日もあるというのに。

長年疑問に思っていたのだが、最近読んだ物に、フラットバックの裏板の「たわみ」についての記述があった。それで、伸縮は「たわみ」で吸収しているのだろうとようやく思い至ったわけである。言われてみれば至極当然で、周知のことなのかもしれない。筆者にはとても新鮮で驚きだったが。

この「たわみ」が「弦高が湿度で変化する」ことに影響与えているのではなかろうかというのが、今回の主旨である。それでは、影響を与えている仮定して、どのように影響を与えていると考えられるだろうか・・・
ようやく話が弦高に戻った。

2007年3月13日

クロスバーの接着など


フラットバックの楽器の裏板には、クロスバーと呼ばれる桟が入っている。
ご存知の通り、木材の伸縮率は繊維方向と繊維に直交方向では異なるため、クロスバーのように繊維を直交させた接合は伸縮によるストレスを受けやすい。クロスバーの端が浮いてきて、ノイズが出るような事もある。

クロスバーの端が少し浮いたくらいなら、表板を外すような事をせず、f孔からの作業で済ませたい。「本格的なレストアは頻繁には出来ないから、将来一流の人に徹底的にやってもらう時まで小修理で乗り切りたい」のである。こういうやり方は特に地方では現実的な解だと思う。

膠を流しこむだけでもノイズは止まると思うが、圧締出来た方が接着強度が出るし、小修理とは言え、出来るだけの事はしたい。上下のクロスバーはf孔から遠いので圧締するのは少し骨だ。内部に押さえの板を入れて、f孔から丸棒で押す方法を考えてみた(写真)。これだと楽器を載せている作業台と押さえの板の間にのみ圧締する力がかかるため、他の部分にストレスがかからない。

圧締の方法には、他に魂柱の様なつっぱりをかませて押さえる方法もある。ひょっとしたら素晴らしく便利な専用のクランプが存在しているのかもしれない。

2007年3月12日

弦高の変動など1

弦高は湿度によって変化する場合がある。
湿度と言うことは、季節によって変動がある場合があると言っても良いかもしれない。ただ、これも例のごとく楽器によって多少がある。セットアップとは直接関係が無いが、興味があるので、弦高が湿度によって変動する理由について考えてみたい。

木は湿度に依存して伸び縮みしている。無垢の木を用いた木工では、木の伸縮を無視すると、割れや破損に結びつく。木の伸縮には方向性があって、繊維方向には殆ど伸縮しないが、繊維と直交方向には約1%ほど伸縮する。だから、繊維が互いに直交するような接合には、伸縮を吸収する仕掛けがあるのが普通だ。

コントラバスで驚くのは、一見伸縮を吸収する仕掛けが見当たらないことだ・・・

2007年3月11日

弦高など

弦高は本当に人それぞれだ。 ホームページ上では、標準的な値として6,7,8,9mm(G,D,A,E)を揚げたが(指板の駒側の先で測った値)、これもあって無いような値だ。

プレーヤーの好みや奏法はそれぞれだから良いとして、楽器のセットアップとして弦高に関係が深いのは、キャンバーと言われる指板の反りだ。反りの量は、最深部の深さで測っている。最深部の深さだけでなく位置も弦高に影響する。同じ深さのキャンバーなら、最深部が上ナット側に近くなるほど低いポジションの弦高が高くなるからだ。最深部を上ナット側に近づけるメリットが良く分からないのだが、実際にはそう言うセットアップの楽器もある。G線側とE線側で量を変えてある(経年変化?)ものもある。

キャンバーが全く無い指板は、あるものに比べて弦高を高くセットアップする必要があるように思うが、これも好み・奏法によろう。キャンバーが無いと、ハイポジションに行くに従って弦高はリニアに増加する。適切なキャンバーがあると、これを弦高が一定に近づけるように補正できる。この辺の詳しい事情はヴァイオリンと共通で、ネット上にも解説がある。

2007年3月10日

駒の溝など

駒の弦の通る溝を作る場合、弦と直交方向の断面は、基本的には使用する弦の径にフィットするような形にしている。この形に付いては色々好みもあろうかと思う。話題にしたいのは、弦に沿った方向の溝の底の形だ。上ナット方向とテールピース方向に向かうようにRを付けると、弦が駒に食いつくのを防げるように思う。言えば馬の鞍に似たような形。駒の上部をこのRで成形して、深さが一定になるように溝を付ける方が良いと思うが、弦高を自分で調整する場合、簡易的には溝だけの成形でも問題無いと思う。成形が終わったら、最後に鉛筆で仕上げている。

2007年3月9日

上ナットなど

上ナットを新調する時、接着していない。上ナットは接着されるケースが多いように思うが、接着しなくても特に問題無い様だ。もちろん弦を全て外すとポロッと落ちるので、落ちない程度に付けておく方が良いのかも知れない。接着していない事の利点は、交換が容易であることだが、一旦気に入ったセットアップになれば、そうそう交換するものでもないと思う一方、通常は全ての弦を一度に外す事は無いので、それなら接着していなくても良いかとも思う。

2007年3月8日

またアジャスターなど


先日アジャスターを付けた時には、アジャスターから下の部分(足側と呼ぼう)を比較的長くするようなメソッドで取り付けを行った。個人的に見たことがあるのは、アジャスターから上の部分(脚側と呼ぼう)の長さを比較的多く残したやり方だが、足側を長くしたほうが駒の振動を抑制しにくいという。駒が振動しやすくなると、音量は増すが音は柔らかくなるそうだ。どの部分で切っても、アジャスター部分で駒の材料は切れているのだから、振動の自由度は増す方向だと思うので、いずれにしても音は柔らかくなりそうだ。 アジャスターとりつけ後弾いてみた感じでは、音量は良く分からないが、音は柔らかくなったように思われた。今回は、アノダイズされたアルミのワンピースのアジャスターで、ネジはインチのものを使用した。色は黒。

2007年3月7日

アジャスターなど

楽器の付属品やセットアップにはコントラバスに特有のものがあって、駒の高さを調整するアジャスターもその1つと思う。余計なものは本来は無い方が良いのだろうが、近くに専門店が無かったり、弦高の季節変動が大きい楽器では有った方が実用的である。
アジャスターには主に塊からネジ部分とピンを削り出したタイプと、ネジおよびピン部分と円盤部分が別体のものがある。一般には、塊から削り出したタイプの方が精度がありそうだが、個体差が大きかろうと思う。
ネジ部分は、国内ではM6のピッチで、海外では1/4" 20TPIのものが主流のようだ。インチのピッチの方が粗いので、メネジが木質の時はインチの方が少し有利の様な気もする。アジャスターの材質が、黒檀等の堅木の場合には、ネジの径はもっと太くなるようだ。