2008年7月21日

革の足


ご存知の通り、コントラバスは、演奏されない時、椅子に立てかけたり横に寝かせたりするので、床に当る部分が痛みやすい。表板の方が柔らかく、大抵は、G線側を下にすることが多いので、G線側の表板の方が痛みやすいようである。

元々無かったものを付ける事には賛否もあると思うが、写真の楽器は、表板が減ってしまって、楽器を置いた時にリブが当るようになっていたので、革で足を作った。リブの厚みは、場合によっては2mm位しかないから、ここが減ってしまっては大変である。念のために言うと、「足」が正しい用語かどうかは分からない。

足には、黒檀等の材料で作ったものもある。リブのRにフィットして取りつける。以前小さな黒檀のものを製作したが、付ける段になって取りやめた事が有る。楽器の重さが足の部分にだけに集中するため、その楽器ではリブの負荷が大きいように感じたからである。もちろん、木質の足が全て悪い訳ではなく、筆者の作ったものは少し小さ過ぎたのである。

黒檀で作られた足でも、大きさや取りつける位置などが適切に考えられているものもあると思う。黒檀には高級感が有るし、楽器の雰囲気を損なわない事も重要な要素である。今回の足は、楽器のの色に合うようにニスの色を調整した。革は耐久性の面では劣るかもしれないが、弾力が有るので、負荷が分散されるという長所がある。

2008年7月16日

リブ・コーナー


Cバウツのコーナーの継ぎ目も剥がれる事がある。

そもそもで言えば、この部分が開いた時、完全に修理するには表板を開けて行うのが良いとされているようである。外側からの操作だけでは、側板とブロックの密着を完全には保証できないからである。

しかし、全体の状態から見て表板を開けるほどの理由が無ければ、根本的な修理は将来に先送りする事にして、外側から最善を尽くした方が良い時もあるのではなかろうか。開いた部分を外側からクリーニングし圧締する。実際は、膠で接着する事よりは、事前のクリーニングが仕事のようなものである。古い膠やニス、ホコリ等が入りこんでいたり、開いたなりに膠を流し込んであったりするからである。これらを綺麗に取り除かなければ、接着に強度は期待できない。

写真右は、剥がれた部分をクリーニングして接着した後、ニスの補修が途中まで進んだ状態である。周辺のリブの表面も、全体に松脂や汚れを落としてある。裏板の角の部分の内側の色が剥がれているのは、以前修理された時のニスが、はみ出した膠の上に塗ってあったからで、はみ出した膠を掃除する過程で落ちてしまったのである。この部分にはニスを足すことになる。

2008年7月12日

ネックのピッチ(エクステンションと5弦)

電波塔の例え話では、ネックの振動を妨げない方が楽器の鳴りには良いのではないかという話を紹介した。

しかし、かと言って、ネックがグラグラでは良い結果は得られるはずがなく、ボディとはしっかりと接合されていなければならないようである。本体には固定されているが振動は妨げない方が良いと言う事になると、電波塔の例え話では説明は難しいのかも知れない。

このことに限らず、筆者の場合には、理論の証明よりは、テストして良い結果が得られる事が重要である。電波塔の例は、ナット上の弦間隔の話に関連して出てきたが、現実には、ナットを新しくすれば、弦間隔以外にも材質やフィットなども変化するから、弦間隔の寄与だけを取り出す事はできない。弦間隔に注意して新しいナットを作ったとしても、入れ替えて弾いて見て、その結果で使うかどうかを判断すると言う事である。何を良いと思うかについては主観が入ると思うが、それはある程度は仕方ないし、最終的には楽器の持ち主に判断してもらうしかないと思う。

他にも、モード・チューニングのような事も、結局、良い結果を探すための指針なのではなかろうか。楽器はそれぞれだから、理屈通りにピッチをセットしても、本当にベストの位置なのかは疑問が残る。ある程度範囲をとって、調べることも必要なのではないだろうか。

こういうやり方では、手間や時間は余計にかかる。技量が高く経験が豊富な技術者であれば、より短い時間でより高いクオリティに到達出来るのかも知れない。残念ながら筆者の場合は、ゆめゆめ時間を惜しんではならないということのようである。

2008年7月7日

魂柱と材料


魂柱調整が楽器の鳴りに影響することは良く認識されていると思う。調整だけでなく魂柱自体のクオリティもまた、楽器の音に大きく影響すると思う。

魂柱のストックが無くなったので、当然の様に以前注文したところから取り寄せた。すると以前のものとは似ても似つかぬ物が送られてきた。魂柱の形自体に違いがあるわけではなく、使われている材料の問題である。以前の物がとても良くて気に入っていたので、魂柱の入手に不安を感じていなかったのだが、販売者自体は材質に対する自覚が無いようで、以前のロットは偶然に良かっただけのようである。いずれにしても届いたものは使う気にならないので、2,3別の所からも取り寄せてみたが、結果は芳しくなかった。同じ様にセットアップしても、材料のクオリティ次第で結果が大きく違うのに、納得できる訳が無い。これらの魂柱は、何種類かの長さに切って、長さのテスト用に使うとしよう。

話を元に戻すと、問題は年輪の密度(用語が正しくないかもしれない)や繊維の通り具合である。さらに樹種による強度の違いもある。後は、これは筆者の勝手な感覚だけれども、木口を削った時にしっとりと削れる感じのものが好きである。しっとりと言っても、含水率が高いわけではない。まあ「しっとり」は筆者の勝手な感じなので、あまりあてにはならないかもしれない。含水率も重要である。個人的には、気乾含水率の低い地方で天然乾燥されたものを、シーズニングして使うのが安定度が高まるので良いような気がする。室内で乾燥させたものであれば気乾含水率はあまり関係無いかもしれないが。ともかく、魂柱のようにシンプルなものは素材が良くなければどうしようもない。結局、当たり前の話かもしれないが、スプルースの中でも音速が早く、強度の高い材料を買って、自分で作ることにした。もっともらしい話のようだが、簡単に言えば、ヴァイオリンの表板用の材料を買うというだけの事である。完璧とは行かないかもしれないが、ヴァイオリンの表板ならば、ある程度年輪の密度などを指定したり、樹種を選ぶ事が出来るし、繊維方向のズレなども最小限に抑えられるからである。

特に割ってもらう必要は無いのだが、用途を説明しておいたので、割材の形で送ってくれた。うがった見方をすれば、先方としてもこの方が表板にならない端材がはけて嬉しいのではなかろうか。割ってあると繊維方向が分かりやすいし、それぞれバラバラで共木では無いようだから、こちらとしても選択の巾が増えて有難いというものだ。セットアップするのが楽しみである。