2009年12月26日

リセットの後

裏板のボタンは、ネック周りの修理のたびに少しずつ小さくなるので、古い楽器には黒檀のクラウンがついている事がある。

クラウンの目的は、小さくなったボタンを補う事で、場合によってはボタンの位置を調整するために用いられることもある。この楽器では、以前にネックリセットされた時に、ボタンは削りなおされており、今回のネックリセットと形が合わないので、クラウンを作った。ネックの脇を埋めている部分も、新しく製作した。


作業前にあったネックと表板の間の隙間もネックリセットによって密着した。この部分とサドルに挟まれて、表板は弦のテンションによって、上下から押さえられる。逆に言えば、ネックは表板によって押し返され、支えられているのだから、直接触れ合っていた方が良いのではないだろうか。

指板を新しくして、ドレッシングを行った。私の場合は、指板のG側の角の面を少し大きめにする。G側は指が触れるので、指板の側面の形も少し変えていて、触った感じの方を優先している。E側は・・・見た目優先である。家人の反応は薄い。

2009年12月22日

チューニングマシンを見ながら


ギアが大きいチューニングマシンは立派で見栄えがする。

しかし、今回のチューニングマシンのように比較的ギアが小ぶりなものも雰囲気があって良いと思う。どことなく古風な感じがして好感を持った。写真は、上がクリーニング後のものである。

今回の物は、ギア比が約20:1で、つまりペグを20回回すと軸が一回転する。以前に取り上げたIrving Sloaneは50:1である。ギア比が大きければ、ペグ一回転あたりの軸の回転が小さくなるので、微妙な調整がしやすいという理屈である。ただ、実際にはナット部分の調整や、チューニングマシンの動作の状態によって、大きくフィーリングは変わる。また、実用上は20:1でも十分であるように思う。実際今回のマシンで、微妙な調整も可能で、ペグを回す力も十分に軽くて済み快適であった。


考えてみれば、ガット弦のようなタイプの弦は、スチール弦に比べてたくさん巻かなくてはならない。チューニングマシンと弦との関係で言えば、ギア比が小さい方がバランスが良かったのかもしれない。ひょっとするとスチール弦の出現が、大きなギア比への指向を生んだのかもしれないなどと想像しながら、今回のマシンをしばし観賞させていただいた。

2009年12月15日

勝手

チューニングマシンを外す時、ついていた場所をマークする。

同じように見えても、鋳物であればパーツの大きさなどにばらつきがある。また、元は同じだったとしても、長年弦のテンションを受けて擦り減ったり、変形している可能性がある。それぞれの場所に戻さなければ、動作が固くなる事もありうる。勝手があるということだ。

今回のチューニングマシンは、汚れてもいるし動きが良くないため、外して調整する。作業にあたってついていた場所をマークした。各部を綺麗にするのは例によって一仕事である。掃除をする過程で改めてよく見ると、以前に付けられたマークに気付いた。

マークは、上の写真で分かるように、真鍮パーツの裏側に引っ掻いて付けられていた。マジックのは今回付けたマークである。(もちろん元に戻す時に消す。)基本を押さえた人がつけたマークなら、字だけでなく字の向きにも意味があるのが普通だ。もとのマークに従って並べ替えてみたところ、D線以外は相互に入れ替わっていた。パーツによっては、ひっくり返ったものもある。この配置がおそらくオリジナルの配置で、過去に修理で外された時に混ざって取り付けられてしまったのではないだろうか。

はたして、オリジナルの配置に戻ったマシンは調子を取り戻した。汚れなどを落とし、各部の修正を行った事もあり、期待した通りの軽快な動きだ。

2009年12月11日

エンドピンのネジ


ネジで止めるタイプのエンドピンでは、エンドピンを止めるネジを無くした時、他のネジで代用されている事がある。

しかるべく作られているネジなら、エンドピンの材質より軟らかい材質で作られているのではないかと思う。クロムメッキされるなどして一見分からなくとも、エンドピンを傷つけないための配慮である。ネジは真鍮製であることが多い。スチールのエンドピンをスチールのネジで止めるのと、真鍮のネジで止めるのとでは感触も止まり方も違うように思う。

スチールのネジの場合は、エンドピンとネジが当たった瞬間にガチっと止まってしまい、それ以上の締め付けが効きにくい。力を入れて締めても、何かの拍子でエンドピンとの位置関係がずれると、止める力が小さくなってずれてしまう事もある。真鍮のネジは、エンドピンに当たっても、ぐっと締まる感じがある。ネジの方が柔らかいので、すこし変形しつつ締まるような感覚である。緩みにくいのではないだろうか。

代用されるネジは、手近なスチールものであることが多い。何でも純正部品、という考えには与しないが、材質など配慮されている物については、使う理由があると思う。

2009年12月4日

ネックリセット


ネックの接合部分は、楽器の中では唯一と言っていい位、仕口らしい仕口である。言えば締まり勾配のついた蟻ホゾという所か。強度のある仕口にするには、物理的な形による接合強度もあるが、膠で接着するわけだから、互いに密着していなければならない。コントラバスの場合、ネックの強度におけるボタンの寄与は、ヴァイオリンで言われるほどは大きくないとも言われている。本当かどうかは分からないが、仕口全体の接着面積に占めるボタンの割合によるだろう。いずれにしても、仕口部分が精度良く作られ、接着が良く効いていることが前提である。

ネックをリセットする時には、先に述べたOverstandを変えるかどうか検討する。今回、overstandは標準的な寸法の範囲である。オーナーの方はオーケストラ中心に使用されているという事であり、最初に試奏させていただいた感じから、overstandは変えない事にした。もっとも、指板を新しくする事で、指板の厚みが増える分overstandを増やすのと同じ効果を期待したためでもある。Overstandを大きく取り過ぎると、楽器の厚みが増えたのと同じになって、ネックが体から遠くなってしまう恐れもあると思う。特にこの楽器はアッパーバウツの幅が大きいため、普通の音域での負荷とハイポジションでの負荷のバランスをとる事が必要ではないかと思う。

ネックリセットは、ネックのセンターを楽器のセンターに合わせ直すチャンスでもある。表板のネックbuttの中心、f孔間の中心、センターシーム、楽器の巾の中心と測るところはいくらでもある。また、裏板のボタンや裏板のセンターシームとの整合も取る必要がある。これらは全て一致するわけではなく、事前に着地点を検討する必要がある。全ての値を希望する値にしつつ、ネックとブロックが仕口として正確に合うように削っていく。コントラバスは、その大きさもあり、取り付けては測り、外して削り、また取り付けて測るという繰り返しは大仕事だ。レーザーで基準を決めておけば、仕事は幾分楽になる。

2009年11月26日

ネックリセットのはずが

ネックをリセットする事になり、ネックを外すと、ブロックの状態はおもわしくなかった。

既にネックは少なくとも一度リセットされていた。ネックブロックの写真右側は埋め木がされていて、深さは分からないが新しい木が追加されている。また、左側の古い部分は、剥がれたが付けなおされた状態で、接着には隙間があり、ネックを良い状態で支えられるとは思えなかった。さらにサイドに入れられたシムは、部分的に入っているだけで密着度が低いうえ、壁自体にも亀裂が入り、ブロックとは一体ではなくなっていた。

この状態が分かった以上、このままネックをリセットするわけにはいかない。このままでは間違いなく楽器の効率は上がらない。ネックリセットの前に、ブロックを交換するか、補修するかである。結局補修することにした。埋め木と剥がれの部分を掘り進むと、深さはそれほど深くなく、ネックブロックのサイズから、悪い部分を取り除いても、強度が保てると判断した。10mmほどブロックを掘って、以前の補修跡をまたぐように埋め木をし、さらに壁の部分を補強する事にした。ネックブロックは、割れて3つに別れた形跡があり、接着されていた。今回は、この割れた部分をまたぐようにこれを埋めた。

この楽器のネックは、彫り込まれている深さが比較的浅いタイプである。深く掘られているかどうか、また、さらにもう一段ホゾが付いているかどうかは製作方法の違いであって、優劣の違いではない。楽器の他の部分の構造とも関係して、楽器のキャラクターを決める一つの要素であると言われている。

ネックの方は、綺麗にクリーニングする。今回は、部分的に膠ではない接着剤が使われていたので、クリーニングには時間がかかった。膠でない接着剤は、除去に時間がかかるだけでなく、完全に取り除くのは難しい。一部残った部分もあるかもしれないが、殆ど影響は無いと思う。

裏板のボタンと接着されるヒールの部分は、大きく面がとられていた。この部分は多少は、面取りした方が良いが、面にしてはあまりにも大きいので、木を足した。木口接着に近いが、ボタンとの接着面積を多少は稼ぐだろう。

今回の指板交換に伴う、ネックリセットとブロック補修は、オーナーのかたには、予想外の出費となったと思うが、結果的には良かったのではないだろうか。外からは見えない部分ゆえに、こういう機会でもなければ、ブロックの状態は分からなかったのではないだろうか。

2009年11月21日

指板交換のはずが


楽器全般のチェックとともに、指板交換のご依頼をいただいた。

交換の理由は指板が薄いためである。薄いだけなら、あと一回くらいは、ドレッシングできそうでもあったが、反りの量が大きいため、交換が望ましいと判断した。

チューニングマシンの調子も良くなかったため外し、ナットを外し、指板を外す。指板は常に綺麗にはがれる訳ではないが、今回の楽器は順調であった。指板の裏側とネックの接着面は、接着を確実にするため、ナイフで傷を付ける事があり、今回の楽器でも付けられた跡が見える。外した指板の裏にはサインがあり、さらに割れを補修した跡があった。

指板を外し、ネックを綺麗にしていると、どうも様子が変である。ネックに剛性感が無い。最初に楽器を拝見した時に、ネックの付け根部分と表板の間に隙間があり、少し気になっていた。この部分は表板に弦のテンションを伝えるところなので、極力密着している方が良いのではないかと思う。一見ついていないようで、ついている場合もあるが、今回は、やはりネックの接合に問題がある。隙間はナイフが簡単に入る所もあった。

ネックは緩んでいてもすぐに外れてしまう訳ではない。この楽器でもボタン部分はしっかりしており、弦を張って弾くことは可能である。しかし、緩んだネックでは、弦の振動が吸収されてしまい、効率をあげる事は難しい。オーナーの方と相談して、ネックのリセットを行う事になった。

2009年11月13日

古色

チューニングマシンは、使いやすく手入れされているのが一番で、見た目は二番かもしれない。

オーナーの方の希望にもよるが、古いチューニングマシンなら、なるべく時代を残しつつ綺麗にする。古くて良く手入れされた機械は良いものだ。新品のチューニングマシンも嬉しいものだが、もともとの作りが良かったり、特色のあるマシンなら、手入れして長く使いたい。

たいていの場合、古いチューニングマシンのギアの歯の間には、油とほこりが固く固まったものが詰まっている。もし、全体をピカピカに磨いてしまうなら、有る程度強硬な手段もとれるが、一つ一つ取り除く事もある。世の中を変えるとも思えない地味な作業である。真鍮製のパーツであれば、緑青の部分は取り除きたいけれども、表面の味は残したい。スチールのパーツであれば、汚くなったさび部分は取り除きたいが、全部をピカピカに磨いてしまうと時代が無くなってしまう。メッキパーツや、普段からよく磨かれていて光っている部分は、基本的には綺麗にしてしまう方向で、錆や酸化した表面のテクスチャは生かしながら、見た目が良くなるよう努力する。
写真の奥側が作業前で、緑青で少し緑がかっている。緑っぽいのが取れるだけでも、良い感じになると思う。家人の反応は薄かった。一見すればあまり変化は無いが、各部分の汚れやゴミが取り除かれ、動作は快調になった。
もともと、チューニングマシンの手入れを行ったのは、外観のためではなく、動作の問題だったので、快調になったのが一番だ。反応が薄くても良いのである。チューニングマシンが固い理由はさまざまで、今回は、対向するチューニングマシンの軸が長く、写真のようにプレートと軸が干渉していたのも一因であった。スクロールチークは、軸方向が板目面だから、年を経るにつれてスクロールチークが収縮して、幅が狭くなったのかもしれない。作られた当初は干渉していなかった可能性もある。
チューニングマシンの各部は、使えば減ってくるから、ギアのかみ合わせ部分の当たり方も変化してくる。この楽器では、ウォームギアの飾り部分との干渉も発生していた。なるべく違和感のないように干渉部分を落として、ようやく使いやすい感じになった。

2009年11月4日

指板のビビり


「弦がビビる」を、もう少し専門家風に言いたいのに、良い言葉が見つからない。「ビビる」が、方言なのかどうかも分からない。
「弦が指板に当たってノイズが出る」と言うべきだろうか。少し長い。

ビビるのは、多くの場合、指板の反りが適正でないのが原因である。今回は2か所でビビるという事で、一か所はネックの付け根付近で、もう一か所はD線の解放の半音上のE♭であった。

E♭の方は指板が原因であった。EとE♭間辺りを境にして、ナット側の方が低くなっていた。E♭を弾けば指板がビビるわけである。E♭と解放の間は通常は弾かないので、この部分が減るという事は通常は考えにくい。原因は不明である。と日記には書いておこう。
逆の状態は良く見かける。指板のハーフポジション近辺は良く使うので、弦の下が掘れて溝になり弦高が高いのと同じになってしまう。指板全体が一定に削らず、溝になった部分だけを削るような修理がおこなわれると、見た目は良くなるがナット側の弦高は高いままなので、かえって弦高が高くなってしまう。

ネックの付け根付近でのビビりは、どうやら弦が原因であったようである。弦が経年変化で、テンションが下がっているような感触だったので、それが原因で指板に当たるようになったようだ。上のE♭のビビりも、弦のテンションが高いうちは目立たなかったのかもしれない。

2009年10月25日

Overstand

コントラバスには、ハイポジションが弾きやすい楽器と弾きにくい楽器がある。

これには、楽器の大きさや肩の形、ネックの状態などが関係する。このため、理由を一言で言う事は難しいが、関連する寸法に、ネックの付け根における表板から指板の裏側までの距離がある。この寸法はoverstandとかstand heightなどと呼ばれている。

もしこの値が小さければ、楽器のG線側(もちろんE線側も)の肩が指板に対して近づくことになり、ハイポジションを弾く時の腕のスペースを制限して、弾きにくくなってしまう。撫で肩の楽器ではこの寸法の影響は少なく、肩の張った楽器であれば影響は大きい。厳密にいえば、楽器の肩から弦までの距離が問題なのだから、指板の厚みも含まれて良さそうだという気もする。

Overstandは、演奏上は重要な寸法でありながら、あまり音に影響しないようである。修理する立場だと、標準的な寸法の範囲にあり、特にリクエストが無ければ、積極的に変えようとは思わないと思う。
ただ、ネック周辺の修理をする機会があれば、overstandを変えるチャンスである。ひょっとすると修理する人からは、直接この値が話題にのぼらなくても、「ハイポジションは弾きにくくないですか」と聞かれるかもしれない。

当然のことながら、この値を変えるという事は、駒の高さとの関係でネックの角度やその他の事にも影響がある。その楽器の状態によって、変えるための方法も違ってくる。音にあまり影響しないという事を逆にとって、ハイポジションが弾きやすくなる方向に調整できる可能性があるということである。

2009年10月18日

コルク

エンドピンがノイズを出すので気になっていたとの事であった。
調べたところエンドピンシャンクのコルクが劣化していた。

コルクの役割は、楽器内に突き出しているエンドピンが共振したときに、ノイズを出さないように押さえる事である。エンドピンの共振を抑えるには、必要無ければエンドピンを短く切ってもよい。しかし、いずれにしても、コルクが無ければちょっとした事でノイズが出る危険性は高い。


ボロボロになったコルクと接着剤を取り除き、シャンクを綺麗にした。中のコルクは円筒形で、外側はピッタリに、内側はエンドピンより少しだけ穴が小さくなるように新しいコルクを加工した。

滑りを止めるための溝が彫ってあるタイプのエンドピンでは、出し入れの時、溝がコルクを通過する度にクリック感が出る。ちょっと考えられたエンドピンでは、このクリックの時に、溝がネジの真下に来るようになっている。或いは、逆に、クリック感が出ないような形でコルクが入っているエンドピンもある。そう思って見ているが、ひょっとすると考えすぎかもしれない。


こんな所で、人知れずエンドピンを押さえているコルクの事も、時には考えてみたい。

2009年10月15日

時間

楽器の持主ほど、その楽器を見ている人はいないのではなかろうか。
もちろん、修理や調整を行う人も、楽器を念入りに観察する。


其々に、見る場所やスタンスが違うかもしれない。楽器の構造や特性に対する情報量の違いから、特に修理する側には、より一層の注意が要求されて当然ともいえる。極端な話、持主より修理する人間のほうが、より多くを見ていておかしくないはずである。つまり、「おまかせでお願いします」と言っても良いのかもしれない。しかし、この考えは、正しくないと思う。持主のかたの情報の重要性は変わらないことを強調したい。修理・調整に演奏する方のスタイルや希望を反映するために必要なだけでなく、楽器と過ごしている時間が圧倒的に長い人の意見が重要だからである。

楽器を初めて拝見したときには、必ず各部の測定を行って、修理や調整の方向を相談させていただくことにしているが、何日かその楽器と過ごすうちに分かってくる事がある。私の力不足や、鈍いために時間がかかるという面もあると思うが、いくつかの問題の本当の原因のようなものに、ハタと行き当たる時がある。作業を進めるうちに、新たな問題点が出てくることも少なくない。ともかく、私の場合には、その楽器の事が染み込んでくるまでには少し時間がかかる。

持主の方は、最も長くその楽器と時間を過ごされている訳だから、楽器のことを、現象としては最もよく理解されているはずである。具体的な原因が明確でなくても、原因を見つけるのは修理者の仕事である。なんとなく感じる事でも、瑣末に思えるような事であっても、作業する上で重要な手掛かりになる事があると思う。

2009年10月7日

ウイング


f孔のウイング部分は割れやすい所のようである。

この楽器の場合には、割れは表板の表面だけで裏側は繋がっており、厚みの途中まで割れている状態であった。裏からパッチが当たっている楽器もよく見る。裏からパッチを当てることについては、それなりの配慮が必要である。ノイズが出なければ、場合によっては気付かないこともある割れだが、こんな事でも、音には多少影響がある。

この部分に限らないが、補修に際しては、過剰な補強に対する注意が必要なようである。飛行機は、必要十分な強さで作るという話を何かで読んだ。実際の記述がどうだったか記憶がおぼろだが、丈夫に作りすぎると重くて飛ばなくなったり、荷物が乗らなくなるというような趣旨だったと思う。コントラバスの場合も、強度を追求して必要以上に強度のあるパッチを張ってしまうと、自由な振動を妨げる事につながるようだ。

2009年10月1日

テールピースにテールガットを受けるプレート


テールピースは、黒檀やローズなどで作られているもの以外に、メープルやビーチ等の黒檀に比べれば安価なハードウッドに着色しているものもある。

一般的には、着色のテールピースは安価な傾向だけれども、音の面からは必ずしも悪いとは言えない。テールピースの重さや、そのタップトーンは、弾く時のフィーリングや、楽器の鳴りに影響がある。この調整に関係するのは、主にテールピースの重量であって、テールピースの値段ではない。もちろん高価な素材のテールピースの質感は他では得られない。

着色のテールピースのメープルやビーチなどの素材は、黒檀などに比べると柔らかい。このため、テールガットが食い込みやすくなってしまう。写真のテールピースは着色のもので、テールガットを通す部分の食い込みが激しかった。このため、一部を彫り込んで金属のプレートを埋めこんだ。黒檀のテールピースであっても、必要と感じた時にはプレートを入れている。テールピースは自由に振動できた方が良いと思うが、自由に振動できる事と接合部分に吸収が有る事とは違うのではないだろうか。

2009年9月24日

凸と凹


チューニングマシンの裏側には、出っ張りが有るものもある。

特にチロリアンタイプのマシンでは、薄いプレートに取り付けられているパーツがあるので、その接合部が裏側に出っ張っているものもある。パーツの接合部以外にも、マシンのウォームギア部分が、プレートを超えて裏側に出っ張っている事がある。

この出っ張りに対して、スクロールチークに彫り込みが必要になる。必要以上には彫り込みたくないが、彫り込みが不十分だと、色々不都合が生じる。結果的には、ペグが固くなってチューニングがやりにくくなる事が多い。プレートが浮いて、無理にネジを締めたために歪んだり、ウォームギア部分がスクロールチークに押し付けられて、各部分の動きが悪くなってしまう。

写真では、左が元の彫り込みで、一部黒くなっている所が、マシンと干渉していた所である。右側はプレートの開き部分と、出っ張りの大きさに合わせて彫り込んだ所である。チューニングマシンの不調には、一筋縄ではいかない多くの原因があり、地味だけれども、ちょっとだけ手間のかかる所に隠れている事がある。

2009年9月21日

業務再開のお知らせ

都合により休業しており大変ご迷惑をおかけいたしました。
9月24 日から業務を再開いたします。
どうぞよろしくお願いいたします。

2009年7月5日

C-extension (6)


一旦分解してから、各パーツの仕上げを行う。機能的に優れていても見た目が悪ければ、価値は半減してしまう。半減は大げさかもしれないが、少なくとも手触りが良かったり、表面が綺麗であることによって、使う喜びは増すのではないだろうか。

カポの動きの固さが均等になるように調整し、調弦の具合などを確認する。エクステンションの辺りは、普通なら演奏中に手がいかない場所である。慣れないと、ペグの取っ手などに手が当たり易い。ペグ以外にも、ナットのG線側の角は、ヒットしやすい場所のように思う。試奏しながら、可能な範囲で、手に当たりそうな場所の面の形を修正する。

あからさまに丸くすると形がだれるから、ほどほどにするが、演奏中
の手はとても速く動く事があるから、怪我への配慮は必要な事ではないだろうか。この楽器は問題無かったが、チューニングマシンのプレートの端が浮き気味になっているような楽器では、プレートを修正する事も必要になると思う。

エクステンション上のサムレストとG線側のスクロールチークの間も指を挟みやすい部分では無いかと思うが、エクステンションとスクロールチークの間隔は、ナットに近づくに従いどうしても狭くなるので、慣れるまでは注意が必要かもしれない。

試奏でついた指紋などを拭き取り、作業終了となる。黒檀部分の仕上がりは少しだけ艶消しにしてある。使い込めば、良く触る部分には艶がでて良い風合いになると思う。真鍮部分の色も落ち着いて渋くなるだろう。

2009年7月2日

C-extension (5)

真鍮パーツの加工を経て、カポの調整を行う。

弦への当たりや、開閉の状態などを見ながら、各音程ごとに形を合わせる。カポを閉じたときに、閉じた部分より上の弦がノイズを出さない事も重要だ。四角いカポは、何とも無骨だけれど、機能だけならこの状態でも使えない事はない。よほどの事情が無い限り、カポは片手で操作できた方が都合が良い。弦を指板側に押さえてからカポを閉める、というような余計なアクションが入らない方が、演奏者には都合が良いのではなかろうか。

カポの数に関して言うと、少なくともEのカポは有った方が良いのではないかと思うが、その他は、純粋に弾く方の好みではないかと思う。カポは開けてしまえば無いのと同じなので、半音ごとについていた方が、演奏が楽になるとは思う。しかし、オクターブの連続を弾くためにC#だけに追加したり、Dだけに付けたりといった選択肢もあり、自由である。カポを増やすと、その分の重量が増えるのでデメリットと言えない事もないが、機械式のエクステンションや、チューニングマシンの重さとの比較でいえば、ほとんど問題にならないレベルのように思う。

機能上の調整がすんだら、形を作ってゆく。カポは良く見えるし、直接手に当たる部分だけに、形もまた重要である。小さな世界だけども、例えば、面の処理などは、どこで始まり、どう繋がって、どこに消えていくのか、バリエーションは無限にある。オーナーの方の希望をお聞きして作業するが、ディティールをつくる楽しみを味わえるのは、作る者の特権かもしれない。

2009年6月28日

C-extension (4)


成形加工が終わったら、仮付けして、実際のセットアップをつめる。

エクステンション上の小さなナットをつくり、他の弦との位置関係も確かめる。カポなしで試奏しながら指板を含めて調整する。まだ仕上げていないため、黒檀の表面は少し白っぽく見える。エクステンション部分の指板の調整は、エクステンションの善し悪しを左右する重要な要素の一つである。エクステンションの名が示す通り、基本的には、元の指板の延長で、さらに弦高や指板の反りの量を加減しながら、修正を加える。

今回はサムレストの形状を多少変えて、ペグボックスへの開口を増やした。この楽器は、過去にペグボックスの付け根部分に修理が行われていて、ナットの下のスペースに余裕が無かった。本体の固定をナット下で行う事はできず、スクロールチークへネジ止めしている。やはり、楽器は一つ一つ状態が違うので、取付方法ひとつとっても、楽器によってより良い選択が異なるということではなかろうか。

弦の取り回しの都合上、本体の長さが若干長くなっているが、通常のケースに問題無く収納できる範囲である。弦の取り回しは、なかなか難しい問題で、特に弦をスクロールの中を通さずにEのペグに入れるには、配慮が必要である。スクロールに穴を開けて、Aのペグに入れる場合に比べ、取り回しの距離が長く、途中の抵抗も大きくなる。弦を急角度で曲げないためには、ある程度の長さが必要になるが、長すぎるのも良くない。使用される弦の種類も多少は考えに入れる。これもやはり楽器に応じて個別に判断するしかないように思う。

2009年6月25日

C-extension (3)


エクステンション本体を楽器に合わせて削って合わせる。

どのようなやり方でエクステンションを固定するか、方法は他にあるにしても、多くのエクステンションでは、弦を張ったとき、弦のテンションで、エクステンション自体がスクロールに引き寄せられる力を利用していると思う。正確に削り合わせれば、エクステンションは安定し、弦の力だけで、十分強固に固定される。このような状態にしてからネジ止めすることによって、ネジに対する負荷が減り、より安定した取り付けになるのではなかろうか。

フィットの後 成形していく。指板部分の形や高さもこの時点で決まり、最終的なExt. E線の弦高も決まってしまう。サムレストを削りだしたり、ネジの穴を開けたり、プレートの入る穴を開けたり、先端の滑車のための加工をしたり、まだまだ仕事は多い。

今回も、滑車で折り返したExt. E線は、エクステンション本体の内部を通って、スクロールの上を通過し、Eのペグに入る構造である。弦が、スクロール部分を避けながら、ネジ止めの穴やカポのステーと干渉しないようにしつつ、Eペグの軸に向かうよう長い穴を開ける。

2009年6月18日

C-extension (2)



黒檀も木なので、木目がある。

エクステンションの材料としては、木取りの方向を出来るだけ完成したときに強度の出るような方向にしたい。また、木には反り易い方向がある。万一反ってきた時に、その反りが機能に影響を与えにくい方向になるようにしたい。さらに構造の問題だけでなく、仕上がった時、指板になる面に、より良い木目が現れるようにしたい。

表面の保護ワックスを取り除き、木目を見やすいようにして作業する。一度切ってしまえば、やり直しが効かない。一番最初に行う作業が、最後の仕上がりを決めてしまうというのに、材料を読み取るのはとても難しい。

適当に切ってしまっても、気づかれないかもしれない。しかし、出来あがったときの品質には、人は敏感に反応するものだ。どこがどうだと具体的に指摘できなくても、感覚的に分かってしまう。もし、そういう理由が無かったとしても、最低でも、材料の傷や問題を見ておかなければ、やり直しとなって、もう少し現実的な問題になる。やり直せれば良いが、条件が厳しければ、予備の材料がとれない事もある。いつでも木取りは難しく、迷いの多い作業である。

(エクステンションの製作作業の紹介をしていますが、自作をすすめている訳ではありません。)

2009年6月14日

C-extension


エクステンション製作のご依頼を頂いた。

いきなり完成しているが、途中の写真も少し撮ったので、これから紹介していきたい。

今回製作したエクステンションは、細かい部分の変更はあるが、基本的な考え方は以前から変わっていない。 カポのデザインが、少し変わったが、純粋に意匠の問題である。本体もサムレストの形状などが多少変化している。これは、以前のエクステンションのオーナーの方からの助言もあってできたことである。上の写真では、カポをすべて閉じているが、実際の使用上では、こういう状態になることは少ないのではないかと思う。

エクステンションで気になるのは、エクステンション自体の出来もさることながら、コントラ音域の鳴りである。テンションが変わるのであまり正確なテストではないが、E線をDにしたりして反応をみたりする。結論から言えば、今回の楽器はコントラの音も良く響いて、エクステンションを付けるというオーナーの方の判断は正解だったのではないかと思う。

2009年6月10日

アジャスター(Fishman Full Circle)


今回のアジャスターは、FishimanのFull Circleだが、以前拝見した物と世代が違うようで、ピエゾの入っている側がネジ止めに変わっていた。

オーナーの方の話では、アジャスターのケーブルの付け根が切れやすいのだそうで、ネジ止めにすることによって、修理が容易にできるようにしたのではないかということであった。たまたま見た分解写真では、中には小さな素子が4つ四角く並んでいた。アジャスターは第一義的には弦高を変えるのが役目だが、ピックアップとして動作する時には、アジャスター1/8回転の範囲で回すことによって、4つのピエゾの駒の脚の断面に対する位置関係を変え、音色の調整ができるということである。

アジャスターが音に与える影響については、色々言われている。一つの材料から切り出されている駒を、途中で切って異質の材料を介して再び繋ぐ訳だから、直感的には音が変わって当然と思える。しかし、少なくとも筆者の取り付けた範囲では、ほとんど影響が無いと言えるのではないかと思う。アジャスターをつける場合には、つける前後で必ず同じセットアップにして比較するので、それほど的外れではないと思う。駒を新しく作る時も、必ずアジャスターなしでフィットし、駒を仕上げて試奏した後にアジャスターを入れている。
もちろん、客観的な実験を行ったわけではないので、影響が全くのゼロであると断定することはできないが、ブラインドで弾き比べた時に聞き分けられるかどうかは難しいのではなかろうか。
このことは当然のことながら、アジャスターが正しく取り付けられているという前提の話である。軸の方向や、アジャスターの上面と駒の密着度などは、細かいけれども本質的なことで、通常の駒にとってもそうだが、今回のような内蔵されたピエゾにとっても重要な役割を果たすようである。

2009年6月5日

False Nut

FalseにNutとは、散々な言われよう・・・という訳ではなく、コントラバスの場合には時折使われる手法のようである。

False nutの目的は弦長を短くする事で、指板のスクロール側を短くし、その分ナットを長くして補う。弦長を短くする方にしか調整はできないが、駒の位置を動かさないので、駒の位置を適正に保って、ネックの操作無しに、弦長を調整できる訳である。

このイタリアンは、弦長を短くした度合いは大きくないが、スクロールチークの角の位置を見れば、写真でも指板が詰められているのが分かると思う。今回は、新たに指板を詰める事はせず、もともとついていたFalse nutを、弦間隔を適正にするために新しく作りなおした。

チューニングマシンの話に関連して、スクロール全体の写真も追加した。ナットが着いていない状態なのでFalse Nutで短くされた指板の様子も見える。きゃっつさんご覧ください。

2009年5月19日

チューニングマシンとロマン


マシンが新しいと、光って綺麗である。

ソリッドの真鍮の磨き仕上げだから、時間がたてばくすんでくるが、それも真鍮の良さではなかろうか。写真から分かるとおり、軸はアルミで、真鍮色にアノダイズ(?)されていたので、切った面はアルミの地の色がでることになった。マシンが軽いというのは、軽いエクステンションが有利なのと同じで、振動を妨げにくい利点があり、アルミはその点で有利だ。オーナーの方もそのことを念頭にマシンを選択されたとのことだった。ギアのセンターのネジやウォームギアがステンなので、アルミ色もなかなか良いのではないかと思う。

付属していた取付用のネジは、oval headと呼ばれるネジの頭部が少し丸めてあるタイプだった。通常のフラットヘッドもすっきりして好きだが、このマシンにはオーバルヘッドが良く合っているのではなかろうか。仕上がったマシンを見ながら一人感慨にふけっていても、家人は「男のロマンなのか?」とそっけなかった。
・・・と日記には書いておこう。

50:1のギア比は、回す回数は増えているはずだが、その後のオーナーの方のお話では、簡単に巻けるので感覚的には早く弦交換できるように思われるとの事であった。ともかく、一旦巻いてしまえばチューニングの感触は素晴らしい。もちろん、Irving Sloane以外にも良いマシンは沢山ある。どんなマシンがどんなふうに着いているのか、コントラバスならではの見どころの一つと言えるかもしれない。

2009年5月17日

チューニングマシンの配置


話が前後するが、ブッシングすると、新しくつけるチューニングマシンを好きなように配置することができる。写真上は、仕上がったペグボックスである。

好きなように、と言っても実際はかなり厳しい制約がある。まず第一は、ペグボックス内で、軸が他の弦と(なるべく)干渉しないようにしなくてはならない。次に、ペグ自体がなるべく互いに近寄りすぎない方が良いと思う。不必要に離れるのは良くないが、ワインダーを使うときにはペグの取っ手が近すぎると使いにくい。これに加えて、軸とペグボックスの底とのクリアランスを確保し、チューニングマシンのプレートがスクロールチークからはみ出さない範囲に穴を開けなくてはならない。

現実には、第一の条件の、弦の干渉を避ける事すらできないことも多い。殆どは、ペグボックスの設計とペグの軸の直径によって決まってしまうためである。良く見かけるのは、D線とG線の軸が干渉しているケースで、詳しく説明はしないが、G線とD線がどこかでクロスするので、弦をうまく配置しにくい。

今回はGペグの軸をなるべく低くし、Dペグの軸をできるだけ高くしたうえで、Aペグの軸でD線を持ち上げ、G軸とD線が干渉しないように配置した。D線とG軸の間に弦一本分の空間ができたので、G線の巻き部分がD線に当たらない。

やってみたことはないが、チューニングマシンの配置があまりうまくない楽器でも、弦を巻くマシンを入れ替えることで干渉を避けている人もいるようだ。例えば、G線を通常D線が入るペグに巻き、D線はG線のペグに巻くということのようである。ペグ位置が変わるので、あまり気分は良くない気がするが、他に手段がない場合には試す価値があるかもしれない。

ペグボックス内で、悠々自適なのは大体においてE線で、他の弦に干渉することもされることも少ない。

2009年5月10日

チューニングマシンとスクロールチーク


チューニングマシンの軸穴の配置を決め、穴をあける。

チューニングマシンの軸が滑らかに動くために最も重要なのは、マシンが付く側のスクロールチークに対して、正確に垂直に穴を開けることである。垂直でなければ、弦のテンションがかかった時に、チューニングマシンのベースと軸の間に無理な力がかかり、滑らかに動かなくなってしまう。

軸の穴が正確に開いていれば、軸の穴は軸が自由に動く範囲でピッタリの方が見た目が良いのではないか。Irving Sloaneのマシンは、軸穴を貫通させないことを前提で作られているように思うが、今回は軸が補強部分にかかっていた方が良いと判断して、貫通させるやり方を選んだ。軸が受ける弦のテンションを、補強部分でも支える方が無理が無いと考えたためだ。

2009年5月5日

スクロールチークの補強


オーナーの方のご希望で、スクロールチークをの補強を行った。

古い楽器などでは時折見かける補強で、この楽器もブッシングの穴が互いに繋がる位になっていたので、補強は適切な判断だったのではなかろうか。ブッシングのあとを綺麗にし、古いチューニングマシンの彫りこみを埋めてから、補強の板を着ける。板を張る前は、継ぎ接ぎだらけのようだが、スクロールチークの厚みに対する彫りこみの深さはそれほどでもないので、強度を損なうような状態ではないように思う。

スクロールチークの厚みが左右で均等になるように補強の板の厚みを調整し、オリジナルの形を変えないように、成形していく。写真では分かりにくいが、下の写真の手前手前側のペグボックスの底の角は、補強板と一体にすると面が大きくなるし、元の面の大きさが分からなくなるので、もともとの面をなるべく残すように作った。この楽器のペグボックスの付け根付近は過去にも何らかの補修を行ったようで、塗られているニスの色が多少違う。以前は、付け根からスクロール付近の色まで徐々にグラデーションされて、色の違いを吸収していたようである。

2009年5月1日

チューニングマシン・チューン


今回のイタリアンのチューニングマシンは、何度か交換されたようで、複数回のブッシング跡があり、チューニングマシンの跡を埋めた所もある。今ついているマシンもそれほど悪いものではなさそうだが、オーナーの方はマシンの交換を希望されていた。交換するマシンは、Irving Sloaneのもので、ベースはキャストブラス、ギアの噛み合わせの精度が高く、ガタは殆どゼロである。パテントを取っているのがどの部分かは分からないが、樹脂製のワッシャなどを用いていて、動きはとても滑らかである。

チューニングマシンを交換するには、ペグ穴を埋めてあけ直す必要がある。コントラバスのペグ穴は、テーパーが付いたものと付いていないもの両方あるが、今開いている穴はテーパーありである。テーパーのついたメープルの棒を作って差し込み、接着して埋める。コントラバスの場合は、チューニングマシンの構造からいって、機能の上からは軸にテーパーがついている必然性はないように思う。Irving Sloaneのものはテーパー無しだ。

2009年4月24日

サドル


サドルは重要なパーツの割には、普段は目にとまりにくい。

比較的新しいイタリアンのセットアップをご依頼いただいた。新しいとは言っても30年くらいは経っている楽器である。状態をチェックしてみると、サドルクラックが入っていた。サドルの左右には、一見クリアランスがあるように見えるが、奥の方ではすでにきつくなっていた。また、サドル自体の密着度ももう一息というところで、浮いている部分もあり、フィットをやり直すことにした。サドルのフィットは、往々にして適当であることが多い。何故か、高価な楽器かどうかにはあまり相関がないような気がする。

本当なら、本体側の面が直線で平面であるのが理想で、そうすればサドルの面も正確に平面にするだけだから、フィットはとても簡単である。残念ながら現実には、本体側は凸凹の事が多い。例によって楽器の本体をモディファイしないというコンセプトなので、サドルを削って本体の形に合わせて行く。サドルは弦のテンションを一手に引き受け、表板に伝える役目を担っている。サドルのフィットが悪ければ、このテンションが、偏って表板に伝わることになりはしないだろうか。 フィットが終われば、形を整え表面を仕上げて接着する。このサドルには、強度には問題ないものの、少し割れが入っていたので、それもついでに樹脂で埋めて補修した。

サドルは目が届きにくい位置にあるが、テンションに耐えている。けなげ組に入れても良いくらいだと思う。浮いている事も珍しくないので、時にはチェックしてみてはどうだろうか。

2009年4月18日

エフ


細くて引き締まったf孔もとても良いものだ。しかし、f孔を介した作業の能率は悪くなる。

魂柱は、エフの下の端の穴から魂柱立ての先とは別に入れなくてはならないし、鏡を動かすにも気をつかう。この楽器もとてもきれいなf孔をしているが、細い。細いと、楽器の中でmechanical finger(マジックハンド?)を動かせる範囲が狭くなるので、外から行える修理も限られてしまう。ただ、この楽器の場合は、エフの左右で段差ができていて、幾分自由度はあったのは助かった。

2009年4月12日

テールピースのサイズ


ところで、今回の楽器は弦長が長く、また楽器自体も大きさがある。

テールピースの共振ピッチを高くするため、テールガットの長さを少し短くしたいが、弦長が長いため弦の長さが足りず、ナットに弦の巻き線の部分がかかってしまう。テールピースは、自由に振動できる状態にしておいた方が良いので、テールガットにはある程度の長さが必要だが、長ければよい訳ではない。

今回はテールピースと特定の開放弦の干渉を回避したいので、どうしてもテールピースのピッチを変えたい。仕方がないので、サドル上のテールガットの間隔を広げることでピッチを調整する事にした。黒檀でスペーサを作って、テールガットの間に挟む。スペーサの長さを調整すれば、テールガットの間隔を調整でき、気に入らなければ外すだけである。この楽器のテールガットは合成繊維?のテールガットなので、滑りがよくサドルに傷がつきにくいのも、有利に働いた。これだけ広げてしまうと、本来適正とされている間隔を大きく超えてしまうが、サドルからテールピースまでの距離が長いので、問題にならないのではないかと思う。あとはオーナーの方の評価を待つだけだ。
コントラバスの場合、テールピース自体に手を加えるケースはあまり見ないが、楽器のサイズに適したテールピースを選択し、削るなどの加工を加えて、重さの調整なども行っていく事を考えても良いのではなかろうか。

2009年4月6日

育てる

楽器の事を、演奏の面でもっともよく知っているのは、何と言ってもオーナーの方である。だから、セットアップの押し付けを恐れる。

事前に相談し、調整で良い場所を探って、一定の線まで持って行っても、必ずしもオーナーのスタイルや音の好みにぴったり合うとは限らない。体格や演奏の仕方も違えば、要求される音もそれぞれだ。セットアップを変えれば、演奏のフィーリングも変わるから、以前は良かった部分にも変更が必要になることもある。弦高の好みや、弦の間の音のバランスなどは、最終的には弾いてもらって確かめ、良いところを探していく作業が必要になるのではなかろうか。

「私の調整はスタンダードなんです。」と言うと、誤解を受けることもあるが、これは調整が素晴らしいと言っている訳ではなくて、少なくとも最初はできるだけ標準的な状態にセットアップしているということである。音色や、音量のバランスを中庸にすると、楽器の個性も分かりやすい。つまり、最初の調整は、スタート地点という事になる。どんなリペアラーでも同じだと思うが、フィードバックを返して、音の調整の方向を相談することで、継続的に付き合う利点が出てくるのではなかろうか。

同じ楽器でも、答えが一つとは限らないと思うので、あくまで楽器の個性の範囲内という条件はつくが、好みに応じてセットアップを選択できる可能性もあるように思う。もちろん、調整にはトレードオフがあるから、すべての条件を満たす解が得られないこともあるし、ギリギリまで追い込んでこれ以上は無理という場合や、楽器の特性上どうにもならないような特殊な状況もあるかもしれないが、フィードバックを返すことは、セットアップを育てることなのではなかろうか。

2009年4月2日

魂柱の周り


フラットバックの場合、魂柱は裏板に貼られたクロスバーの上に位置する。

多くの場合、クロスバーの魂柱周辺には傷がある。魂柱に押されてできた凹みもあるが、写真のような傷も多い。魂柱を調整するときに、魂柱立てをテコのように使った痕のようである。表板にも同様の傷が見られることもあり、ひょっとすると、ある程度弦のテンションをかけた状態で調整したいという要望があるのかもしれない。

傷が全く関係ないところにあればよいが、自分が魂柱を立てたい場所と重なっていると、魂柱を密着させるのには良くない。あまりにも正直にフィットすると、調整で動かした時にかえって合わなくなるので、小さいくぼみや傷なら跨ぐように合わせるが、繊維がささくれていたりすると、修正してからでないと、フィットの感覚はつかみづらい。傷が多ければ、調整もやりにくい場合がある。ちょっとした出っ張りでも、魂柱が回ってしまったりしてしまう。

2009年3月24日

駒の形


大体の方向は同じになると思うが、当然のことながら、駒は全く同じ形にはならない。

駒の幅や高さが異なるため、細かい配分などは楽器によって違ってしまう。指板のRにも影響される。駒の高さや弦の間隔などの実用的な寸法が正確にできていれば駒としては問題ないけれども、それらの寸法を、出来るだけ良い形にまとめたいと思うのが人情ではなかろうか。

駒のどこを残してどのような形にするかは、駒の厚みや重量等とも関係するので、すべて自分の勝手に決められる訳ではない。それでも、仕上げのちょっとした違いで見た目は大きく変わってしまう。というような事を考えながら、毎度辿り着くのがやっとだ。辿り着いたものを妻に見せ、色々と能書きを語っていると、
「駒って、何故こんな形になったの?」
「・・・・・・・・知らない。」

2009年3月20日

脚の長さ


この楽器の表板には、魂柱側に少し陥没があって中には魂柱パッチが貼られている。

今回アーチを直すことはしないので、魂柱側が低い分だけ駒の片方の足を長くしなければならない。脚の長さを調節して、駒の位置を楽器の中央に保ちながら弦の位置を指板に合わせる。

左右の足の長さが違うと、駒の運動の支点の相対的な位置が変わるので、元々の状態とは条件は変わる。とは言っても、現実には左右が全く同じ長さになることはあまりなく、多少なりとも違う場合が殆どである。多少ならあまり問題は無いようである。写真は、加工前の駒を仮に立てて、チェックしているところで、この時点で駒全体の高さに対する駒の脚の長さも決める。