2011年2月21日

プレーヤとセットアップ4 「ナット」

ナットは、楽器の演奏性(演奏のしやすさ)に大きな影響のあるパーツである。
影響があるのは、指板のスクロール側の弦高と、弦間隔である。

ナット側の弦高に関しては、プレーヤの選択の余地はあまりない。好みに応じて高くすることはできるが、通常は、できるだけ低い方が弾きやすいからである。低くする方の制限もあるが、それは、プレーヤの好みとはあまり関係が無い。

ナット側の弦高を気にするプレーヤの方は多い。一方で、ナット上の弦の幅はそれほど気にされていないのではないか。弦高と同じくらいの重要性があると思ってもいいと思う。

ナット上の弦同士の間隔で重要なことは、まずそれぞれが同じ間隔になっていることである。基本的には、左手の感覚が、どの弦の間でも同じである方が良いのではなかろうか。
そのうえで、弦同士の間隔を広めにするのか、狭めにするのかはプレーヤの好みによる。ナット側は半音の間隔が大きく、もともと左手の負荷は大きい場所である。広くすれば、5度やオクターブの負担は増える。一方で狭くしすぎれば、指が隣の弦に当たってしまい、問題になる可能性がある。
標準的な値からどの位変えるかは、ある程度慎重に決める必要があるが、元のナットを保存しておいてナットを新しく製作すれば、完全にリバーシブルな調整にできる。

2011年2月13日

アメリカから来たベース4

持ち主の方にとって、今回の一番の目的は指板交換であった。

E線の下が平らな指板を、丸い指板に交換する。古い指板は貼りなおしてあり、ネックのと密着は良くなかった。隙間にはニカワではない接着剤が充てんされていたが、充てんされた接着剤の塊とネックの表面との間にニカワの層が残っていたのが幸いして、きれいに取り除くことができた。

指板の素材は黒檀である。黒檀も様々で、妙に刃持ちの悪いものもある。そういう黒檀に当たると、砥ぐ時間が増えて、削っている時間より砥いでいる方が長くなるくらいである。

指板としての機能に問題はないが、削るのは手間がかかる。チークは石灰分を含んでいるがゆえに極端に刃持ちが悪いが、黒檀にも同様なものがあるのかもしれない(これは本当かどうかは分からない)。
 例によって、指板の裏の彫りこみを行って、取り付ける。しかし、ネックの付け根に緩みがあった。ボタン付近には問題が無いので、トリムを外し、ニカワを入れた。しかるべく圧締し、ネックの方向もできる限りは修正する。駒の高さに多少変化があったが、問題となる方向ではなかった。左右方向も多少は修正した。
前の投稿でも書いたが、ネックがブロックから外れかかっていても、ボタンがしっかり付いていれば、弦を張っても持つようである。しかし、音には悪影響がある。特に低温側の弦の音量に影響があるようだ。このトラブルの厄介なところは、弦を外さなければ、緩んでいるかどうかは分からない事である。


2011年2月6日

プレーヤとセットアップ3 「指板」

弦高の話をしてきて、指板の話になった。

指板で演奏性に直結するのは、以下の2つが主ではないかと思う。指板のキャンバー(弦に平行な方向の反り)と、弦に直行方向のRである。これらは、一定の範囲内でプレーヤの好みにできる。ただ、後者は先に述べたボウイングクリアランスと弦高によって決まると言っても良いので、プレーヤとしては、キャンバーの値を中心に考えればよいのではないか。

指板の駒側の端の弦高が同じでも、キャンバーを深くすると、弦が指板に当たって雑音を出す確率が低くなる。一方で、弦高は高くなった感じになり、とくに、指板の長さの中央付近の弦高が高くなる。

キャンバーを小さくすると、この逆が起こる。もちろん弾き方にもよるが、弦が指板に当たって雑音を出す確率は高くなり、全体に弦高は下がる感触になる。キャンバーを小さくしすぎると、押さえている指よりナット側の弦が共振してノイズを出す場合もある。(これはナット側の弦高も関係がある。)

指板のキャンバーは、全長に渡って均一な曲率が基本である。何らかの都合で、正確な円弧にしない場合でも、少なくとも曲率の変化がゆるやかでなくてはならないのではないか。使用に伴って部分的に凹んだ指板の修正を行うとき、指板の一部だけを削って修正できることは少ない。凹んだ部分を平らにするには、それ以外を削る必要があるからである。

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弦に直行方向のRは、希望する弦の配置と希望する弦高から決まる値でなくてはならない。弦の配置は、望むボウイングクリアランスから決まる。
プレーヤの立場から注文するならば、弦高のところで書いたように、ボウイングクリアランスを大きくしたいのか、小さくしたいのかを言うことになるのではないか。

弓で弾かないギターのような弦楽器には、指板にRが無い。このことから考えると、pizzのみのスタイルのプレーヤには、ボウイングクリアランスは少ないほうが弾きやすいかもしれない。好みによる。しかし、よほどのことが無ければ、一応は弓でも弾ける範囲内で少なめにセットアップするのが良いのではないだろうか。

5弦の楽器の場合は、もともと許される調整の範囲が狭い。楽器が大きくなる上に、弦が増えるから、必要なボウイングクリアランスを得る事自体チャレンジになることもある。

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チェロやヴィオラにもあるように、E線の下だけ平らになった指板の効用はどうだろうか。モダンの弦を使う上においては、この"beveled"指板は殆どの場合必要ないと考えてよいのではないか。厚みが十分残っていれば、丸い指板に削りなおすこともある。これはプレーヤの好みや使う弦と演奏のスタイルによる。

2011年2月1日

乾燥にご注意を

乾燥した天候が続いている場所では、湿度の低下に注意が必要である。

楽器を置いている部屋が寒く、練習のために暖房をつけるような状況では、室温の上昇につれて相対湿度は下がる。冬の乾燥した日に暖房をつければ、部屋の湿度は簡単に30%台になり、楽器にとって危険な状態になる。

寒い部屋に置きっぱなしにしているだけでも、乾燥すれば危険はあるが、暖房による湿度の低下は急激で大きいので、加湿器を使ったり、ダンピットを使う方が良い。

日本は、夏季と冬季の湿度の差が激しく、楽器はあちこち移動させるものだから、湿度を完全にコントロールすることは難しい。現実的に可能なのは、急激な変化を避けるくらいかもしれない。あまり神経質になる必要はないが、高価なものでなくても良いので、湿度計を備えて湿度がどのように変化しているか、ご自身の中で感覚を把握なさると良いと思う。