2011年3月20日

CD

CDを頂いた。

時間のかかる作業の時には、音楽をかける事もあるので嬉しい。

ジャズのCDで、ベーシストはSanFrancisco Symphonyのメンバーということである。気楽に聞けて、なんとなく70年代の香りがする。

作業のときCDをかけておくと、一枚終わった時に気づいて、時間の目安になる。

CD情報(2011年3月22日追記)
myTunes! / Larry Epstein (2005 Tonality Records)

2011年3月17日

セルフネックのコントラバス2

楽器の寿命は、材料である木材の寿命に準ずると考えて良く、長い。ただ、全うするにはいろいろなことを乗り越える必要がある。

楽器として良い特徴をもったものならば、大切にされ長く使われる可能性が高いが、どれだけ大切に使っても、長い間には、必ず故障は起こる。故障は修理によって乗り越えられる。適切な修理のためには、可能な限り、修理がリバーシブルである必要がある。

この楽器は、150年の間修理を重ねて使われてきた訳だから、愛され、修理して使いたいというだけの魅力があると言える。
ボタンを開け、ネックの故障を調べるうち、合成系接着剤が使われていたことが分かった。コストなど何らかの事情ががあったのかもしれない。正確に何が使われたのかは分からないが、通常の手段で取り除くことは難しい。
また、接着剤の種類や接着の状態によるが、合成系接着剤には、クリープの問題がある。大きな力がかかると、少しずつ接着面がずれてしまい、場合によっては、ずれたまま固定されてしまう。

今回の修理の目的には、構造を元に戻すことはもちろん、可能な限り合成系接着剤を取り除くことも加わった。しかし、合成系接着剤は、かなり多くの部分に使われているため、全てを一度に取り除くためには、多額の費用がかかる。今回は、構造上主要な部分を手当てし、残った問題とは共存しつつ演奏可能な状態にするという道を選んだ。合成系接着剤であっても、現状の接着を利用できる部分もある。

楽器の寿命がある限り、これからも修理は行われる。この楽器の合成系接着剤を取り除くのは、手間はかかるが可能である。修理の度に、少しずつ問題個所を取り除き、少しずつ良い状態にしていくことができる。その価値がある。

2011年3月10日

G. B. Gabrielli bass

長い間Edgar Meyerさんの楽器の大きさが気になっていた。ISBのBass World, Summer 2006に掲載されていたようで、大きさも載っていた。数値は筆者がミリに換算した。

The Edgar Meyer Giovanni Battista Gabrielli, Florence Italy 1769

Body Length: 1018
Upper Bout: 489
Center Bout: 352
Lower Bout: 606
String Length: 1041

楽器の大きさは、やはり小ぶりで、5/8と言われるサイズに近いようである。表板は3ピース、裏板は2ピースで、杢のないメープルと書いてある。記事によれば、Gablielliのベースは、大きいもの(7/8)と、小さいものがあるらしい。Florrentineスクールのメーカーで、イタリアンとジャーマンのスタイルをブレンドしていることに特徴があるという。
小ぶりな楽器ではあるが、弦長は104cmで、通常の3/4の範囲である。

2011年3月5日

セルフネックのコントラバス 1

バスバーにはセルフバスバーがあり、ネックにはセルフネックがある。

現代の楽器では、一般的には、ネックの付け根付近にネックブロックがあり、ネックはネックブロックに接合される。

セルフネックと呼ばれるのは少し古風な手法で、ネックの部材自体が楽器の内部まで延長され、表板と裏板に直接接着されている。ネックブロックはなく、横板はネック材に掘られた溝に差し込まれて固定される。

ネック付近に問題があると、弦高に変化が現れることが多い。裏板のボタン部分が開き、弦高が高くなってきたとのことで修理を承った。150年ほど前のジャーマンということで、表題ではコントラバスと書くことにした。この楽器は、バスバーもセルフバスバーである。

ネックのヒールとボタン部分は以前に修理されたようで、ボタンはVの形に切られている。この部分が開いていた。ネック自体に折れた跡があるので、以前の修理でボタンが切られたのだろう。ネックが折れた場合、接着だけの修理では持たないので、何らかの補強が必要になる。補強を入れるために、ボタンを一度取り除き、補強を入れた後でボタンを戻したようである。

問題は、この楽器がセルフネックの楽器だったということである。ネックブロックのある楽器では、ブロックとネックの間の接着面積が大きいので、ネックの強度に対するボタンの寄与は相対的に小さい。セルフネックでは、ブロックが無い分、ボタンの役割は大きくなるように思う。ボタンを切ることが、問題が起きる可能性を高くしてしまったのかもしれない。

2011年3月2日

アメリカから来たベース5

 表板の周囲は、夏目の部分が削れていて、楽器を拭く布が引っ掛かり、拭くと却って楽器を痛めてしまう状態だった。

正統に行うなら、エッジをつけ直すが、今回は別の方法で簡易的に補修した。簡易的といってもリバーシブルだから、後に本格的に直す時にも完全に元に戻る。

補修してリタッチしたら、楽器を布でふけるようになって気分が良い。
指板を変えて元のナットは低くなってしまったので、新しく製作した。指板を新しくする時、指板に余裕があれば、通常の厚みより厚い指板にすることもできる。この辺は、ネックの寸法や、プレーヤの好みによる。ただし、指板は重量があるから、あまりにも厚すぎるのも、楽器によっては合わないこともあるかもしれない。
試しに弾いてみて、やはりハイサドルを追加した。この楽器は、最初からハイサドルはつける可能性が高かったので、オーナーの方との話は問題なかった。
写真のように、テールピースの表から裏に向けて、テールガットの穴が開いているものは、テールピース自体の振動の自由度が高い。サドルと駒の頂点を結ぶ直線上から、テールピースの重心が離れるからである。良いとか悪いとかは、個々のケースによる。

テールピースは当初、汚れていてあまり良い状態ではなかった。弦の乗る枕もなくなっていて、さびしい。ただ、素材は黒檀で悪いものではなかったので、サンディングして塗装しなおした。色違いの唐木があったので、枕も作った。

楽器は、音量も出てバランスも良くなり、反応も軽くなった。と思う。以前のセットアップでは、楽器に対してテンションがかかりすぎ、無理があったのではないだろうか。

横板の手垢をクリーニングした所は、手で擦れた感じが良い雰囲気なので、周辺の色にリタッチせず、表面を保護するだけにした。雰囲気が良いからと言って、擦れたまま放置しているのは良くないのではないか。ニスの層が薄くなり、汗や水分の侵入を許せば、楽器を損なう可能性がある。
古い楽器でニスが擦れて無くなったような風合いをもつものも見られるが、多くの場合、目立たぬように保護のためのニスがかけられているようである。